01
銀色の美しい髪が風に揺られて揺れている。
腰ほどまでに伸びたそれを頭の上の方、それこそポニーテールにしていれば、さらさらと絹のように流れていった。
日本。並盛。そこに彼女はいた。
少女の名はエマ。れっきとした外人である。
そんな彼女が単身日本の中学に乗り込んだのはひとえに反抗だった。並盛が許されたのはかの門外顧問である男が並盛にいるからという簡単な理由。
それでもあの環境から逃げることができたのであればエマはなんでもよかったのだ。
「おじさまたちの過保護もいい加減にしてほしいわ。」
自分の立ち位置なぞもう何年も前から知っている。結局は人質のようなものであり、交渉の道具だ。
ただ、たくさんのわがままを聞いてもらっていたのもまた事実であり、飛び出した先をこの場所にしただけありがたいと思ってほしい。
本当だったら家族のところにいきたかったが、あそこでは距離が近すぎるのだ。
「おーい!エマ!授業始まるぞ!」
『ありがと武くん!』
なんて考えていたら、グラウンドから声がかけられた。
屋上まで見えるその視力はかなりいいだろう、その少年に感謝の意をのべながら手を降っておろした。エマの口許は嬉しそうに緩んでいる。
-山本武。
彼女と同じクラスであり、野球部のエース。そして何より、初恋のヒト。憧れのヒト。表情にこそなかなか出さないが、ほんのりと目元が赤くなるのは彼女の白い肌だから余計か。
今日も朝からいいことがあったと、るんるんと足元が弾む。
出会いは入学式だった。
迷子になっていたエマを助けてくれたのが何よりの始まり。
入学式のときに上級生はいなかったし、誰に頼れもしないときに、彼が声をかけてくれたのだ。
同じクラスだということも驚いたのだが、髪色や外人というだけで距離がとられるなか、隣の席に座っていた彼だけはごく当たり前に接してくれた。
イタリアにいたときから回りには同学年はおろか気軽に話せる友達すらいなかったのだ。だから、本当に嬉しかいと思って、いつからか特別になっていたのだ。
『よぉっし今日も一日頑張るぞー!』
ぐっと腕を上に突き上げて宣誓し。
それから階段をかけ降りていった。
並盛は酷く平和だ。気が抜けてしまうほどに平和。
この国では拳銃を所持することはできないし、武器を持つこともできない。
ただ、自分が扱うものは紛れ込ませることができる武器だ。そもそも嗜む程度にと許されたそれが自分の武器だったりする。
表だって活動していないお陰でなかなか日の目を見ることは少ないがこの場所では自分はただの女の子で、いいとそう思えるようになったのは紛れもなく隣の席に座る男のお陰だ。
『いつも思うけどよく屋上まで見えるね武くん』
「お前の髪きらきら星みたいに光ってるからよくみえるのな。」
『本当?』
「ん!」
席についてから挨拶して、それでもってずっと疑問に思っていたことを話せばそんな会話になる。けれど、星みたいといわれて悪い気はしない。正直いうと嬉しい。
にっと彼らしく笑うのに嬉しくなって笑った。
…が、そんな日常がすぐに崩れるとは思わなかったのだ。
190110