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軽くゆすられる。
そのまま名前が呼ばれて、意識を浮上させれば安心したような武君の顔が飛び込んできて体が固まった。
『ひ…え、…は?』
「お、良かった。ちゃんと目が覚めたな」
『…お、おは、おはよう…?』
「おう、はよ。」
「い…生きてる」
「大丈夫っスか10代目!」
「こっちも大丈夫そうだ。 木の枝がクッションになったみてーだな!」
いや、私の心は全然大丈夫じゃない。まさか私ずっと武君に抱っこされて…た?
頭上はずっと高い位置に橋の残骸が見える。 そしてこの現状…。
何がどうしてどうなった…?
随分と空が遠いなぁといっそ空と同じぐらい意識が遠くなる。
…えぇえ…。
「すまん、手が滑った!!」
「てめーー!!手が滑ったですむか!!コラ!!!」
「みんな無事なんだし結果オーライじゃねーか! なぁ!」
『う。うん?』
「エマもこういってるしな!」
「…言わされてるの間違いだと思うよ。山本」
「すまん。」
武君の腕の中から地面に降りて、ぐるぐると考える。
いや、それにしてもだ。
『これ、誰か帰り道わかる?』
「そうだな、まだ無事かわかんねーな」
「そ、そう言われてみれば…」
完全に獣道じゃないか。思わずポケットに手を突っ込んだがスマホは圏外。
…まさか本当に帰る手段を自力で見つけるの…?
『…でも…死の山じゃないし…』
「そうだな。」
『……狙ったわけじゃないわよね。』
「あぁ、もちろんだぞ。」
目の前でスマホがたためるやらなにやら話して盛り上がっている男たちをみて思わず零した言葉にすぐに返答が返ってくる。
思わずにらみつければにぃっといつもの様に笑う。
…本当だろうか。
思わず口に出そうとしてしまったが、やめてよかった。
*Side Yamamoto
ツナがさらわれたときに知り合った、ツナのアニキ分だっていうディーノさんに誘われて、深い山の中に見慣れた銀色が見えて、驚いたのは仕方ない。
しかも、ディーノさんや一緒に来たロマーリオさんとは中がいい…というよりは知り合いみたいで、平然としゃべっている姿を見て、少しだけ複雑な気持ちになるのは、たぶん、どこか自然体に見えたからだ。
ツナのところに行って、俺と獄寺がツナを助け出しているときも、どこかそれを複雑そうに、でも懐かしそうに見ている姿を見ると、なんかもやもやっつーか、なんだろうな。
俺の知らないエマの姿が、なんだかもどかしいっつーか。
小僧にも「遊ぶ」と言われて、速攻動いた姿は俺が知る姿とは程遠い。
どちらかといえば、獄寺相手にしているときのような女子らしくない俊敏さ、的な。
何だろうな、ほーんと。
大きな事件、っつーか、急にでっかい亀が現れて、急いで逃げるって矢先に橋が落ちた。
すぐそばにあったエマの体を引き寄せて、せめて守ってやらなきゃって思ったのは、この中で唯一女だから。
下まで落ちて、腕の中に居たエマは落下の途中で気を失ったらしいが、どこも怪我はなさそうで、数度ゆすれば気が付いてでも、俺の顔見て小さく悲鳴上げた。
あ、近すぎたな。ごめんごめん。
もしかしたら野宿すっかもしらねぇなら小僧が言う通り周りの様子を調べなきゃいけねぇし。
…そのたびになんかツナがいろんなもんに食われそうになってたけど…
結局日が暮れていって、さすがにそろそろどうにかしねぇとなぁって。
『…救助待ってたほうが早いんじゃないの』
「はは、ここまで来るとそうだろうなぁ」
「ちょうどいいのがあるぞ」
呆れたようにいうエマの言い分はごもっとも。そんなとき小僧が指差した方には、洞穴。
全員で近寄れば洞窟は深くつながっているみたいだ。
さて、どうするか、と考えたところで、「さみぃな。わりぃ配慮が足りなかった。」と、やわらかい声。
『平気。いらない。』
「そういうなって、兄貴分の優しさは受け取っておくべきだぞ」
さすがに日が暮れて気温が下がってきたからか着ているコートの前を合わせていたエマにディーノさんが上着をかけてた。あ、と思ったときには完全に二人は隣同士に並んでいたし、エマは上着を羽織らされてた。
あー、なんか、先に気が付かなかったのもしゃくだった、し、なんか、嫌だなって思った。
なんなんだろうな?
そのあと、山火事になったり、水脈でツナが消化したり、またでっかい亀に追いかけられたりしたが、運よく山は下山できて、エマは山を下りた瞬間にディーノさんに上着を突き返していて、なんかスカっとした。
20210828