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 電気のつけないその広々としたリビングで、エマは静かにスマホをいじっていた。
一年に二回だけ許されている、この連絡端末の使用。とはいってもこちらからはかけることはできないし、もちろん他人に聞かれている会話である。
それでも、この日を待ち望むのは、やはりあの人が大好きだからなんだろう。


コール。


『もしもし?』
<おう、久々だな。>
『うん、元気そうだね、兄様。』


日付が変わる音がする。
今日は9月5日。日本でいればかの独眼竜伊達政宗の命日と言われている日でもある。
なにか特別にイベントがあるというわけでもないのだが、それでも、私には大切な日、


<お前も元気そうでなりよりだぞぉ、エマ、Auguri,Buon Compleannno.>
『Grazia、兄様。』
<久々にお前の顔がみてぇな。>


誕生日おめでとう。それは私たちたったふたりだけの家族の電話越しの会話。
誰にも話すつもりはないし、特別祝ってほしいと思わない。ただ、兄さんにこの一言をいってもらえることが私にとっての幸せでもある。

とはいっても、もう、7年もあっていないヒトで、今どんな姿なのかなんて、わからないけれど、久々なんてほど、短い時間じゃない。
私たちには高い高い壁がある。


『私も、兄様に会いたいな。』
<今は、ジャポーネにいるんだったか。>
『うん、ジャポーネで中学校に通ってる。』
<楽しいか?>
『それなりに、かなぁ。』
<なんだぁ?好きなやつの一人でもできたかと思ってたのによぉ>
『好きなヒトはいるよ?武君。』
<はぁ!?!?>


さらっと告げれば向こうから爆音が聞こえた。
耳がキーンってした。
思わず耳から話してしまったがそのままの勢いで<おい!!どういうことだぁエマ!!!俺はきいてねぇぞぉ!!>ととんでもないボリュームである。向こうでさぞかし聞いてる人たちがひいひいしてるんじゃないだろうか。


『言えないじゃん。だって』
<っだがよぉ!>
『すごくカッコいいんだよ。誰にでも優しくて、暖かくて、日溜まりみたいなヒト』
<…つぇえか?>
『うーん。戦ったところは見たことないなぁ、でも、野球がすごく上手だから運動神経はいいと思う。』


兄様はすぐに戦う方に持っていきたがる。
あんまりよろしくないな、とは思ってしまうけど、一応彼もボンゴレファミリーということではあるんだろう。
私は、ヴァリアーに入りたいけど。果たして、それは許されるのかどうかわからない。っていうかそもそもまともに訓練していない私なんかが入ったら兄様の足をひっぱるだけなんだろうけど。

耳元でアラームがなる。
それから兄様が舌打ちをした。あぁ、もうそんな時間なんだと、寂しくなってしまうのは、本当に恋しいからだ。


『S兄様。』
<時間っつうのははえぇな。…悪い、エマ>
『ううん。大好きだよ兄様。』
<俺もだ、もしジャポーネが辛くなったらいつでもイタリアに帰ってこい。あと二年もすりゃぁお前だって一人前だ。そしたらヴァリアーに正式にいれてやれる>
『うん。うん。もっと勉強して頑張るね。』


「時間だ」と、奥から声が聞こえた。


『またね。』
<あぁ、またな>


無機質な音をたてて、切れる電話。
時計を見ればぴったり15分。たった15分の家族の会話に、端末を叩き割りたくなった。
どうして家族なのに、会うことすら許されないのか。こんなたった少ししか話せないのか。


『嫌い、ボンゴレなんて、大嫌いっ』


たった一人の私の大切な家族なのに、それすらも奪い取る大人なんて、大嫌いだ。





一年に二度しかないイベントの半分を過ぎてしまえば、私のテンションはひたすらさがるだけだった。なのにも関わらず、なぜ、学校でまで私はボンゴレに絡まれなければならないのだろうか、

目の前にいるスモーキンに軽く殺意がわいたのは、その男が私の進行の邪魔をしているから。


『朝からうるせぇ。』


元々、血圧もそこまで高い訳じゃない。
朝が好きなわけじゃない。暗殺者は夜の稼業だ。昨日の今日で余計そう感じてしまう。


「あ?んだと」
『そのまんまの意味だよ。邪魔。どいてくんない?』


朝からテンション高く十代目十代目十代目ってオウムかこの男って思うのは心底私の機嫌が悪いからだ。横にいる沢田は私とスモーキンを交互に見て顔を青くしている。一発触発だから気の弱い彼にとってたまったものではないんだろう。
こんな男の下につくくらいだったらやっぱりヴァリアーに入りたい。いっそ永久就職する。


「十代目、こいつしめていいっすか?」
「わーーーー!!だめだよ獄寺君!!!だめー!!!」
『私は別に構わないわよダメいぬ。』
「んだとごらぁ!!」
「火に油注いじゃだめだってぇえ!!!」


絶叫しているところ悪いが私の方が火に油を注がれていることを忘れないでほしい。


『放課後覚悟してろ。』
「はっ!てめぇこそ果たしてやる。覚悟しとけ」


190224


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