35

戦いは豊臣の圧勝で終わった。
真田丸は戦国最強の出丸と言われるであろう活躍すら見せたのだから、今後の戦い、この場所が最も警戒されるということは目に見えている。


「お前は無茶をしすぎだ」
『もう万全って伝えましたでしょう?それを信じてくれた十蔵が私に大阪城の警備をさせただけですよ。』


真田丸に戻ればぼろぼろの衣をまとった信繁にそういわれた。ただそのぼろぼろさからみてそんなに怪我をしておらず安心したのだが、言われた言葉に即座に十蔵の名を出す辺り自分はずるいのだと思う。
怪訝そうに十蔵をみる信繁に『まぁ、十蔵からも暴れるなとは言われましたけどね』と笑ってごまかした。


「だが、助かった。礼を言うぞ。」
『礼を言われる筋合いないわ。言うなら十蔵に、ね?』


後ろから何かしらの視線を感じるがその視線は無視するに限る。笑ってそのまま「じゃあ、私は先に長屋に戻るわ。」と身を翻したのだが「では、送りますよ。あれだけ炎の近くにいたのですから。」と有無を謂わせず十蔵に言われた。
ちらりと市が信繁を見れば「そうだな。つれていけ十蔵」とあっさり彼はそれを是とした。






「脱ぎなさい。」
『やだ、破廉恥。』


今回の戦の大勝利を祝して宴会を行っているのだろう。真田丸から離れた長屋はひどく静かだった。
そも、六実と市が使っている長屋は布でしきっているため半個室のようなものだ。その六実も今は十蔵の代わりに信繁のそばに付いているだろう。
となれば、ここでは二人きり。着いたとたんに言われた言葉に表情をゆがませるのはあまりにも唐突なことだったからだ。


『ほんとうになんともないから、十蔵。』
「ならば問題ないでしょう。無理やり脱がされたいですか」
『…全く。』


ろうそくの明かりだけの部屋は仄かに明るいだけだ。まっすぐ射抜いてくる彼の目に、盛大にタメ息をついてボロボロになった羽織を落とす。正直汚れを落としたかったのだがそんな時間はない。
そのまま帯の留め具を外し緩め、着物の袂を緩める。
その隙間にするりと十蔵の手が滑れば肩まではだけて、彼の指先が肌を滑った。


「…これは」


胸はさらしでつぶしている。そこは問題ない。けれど十蔵が気にしたのはそれではない。あんなに傷だらけだった体に傷がいっさいなかった。市は視線を合わせず、部屋のすみに向いている。
そのまま、滑らすのは右肩の


「っあなたは何をしたんですか。」
『……死なないように化けたのよ。』


そこにあった傷跡も、ない。
数拍の間のあと市は言った。ゆっくりと右手を動かして肩に添えられてる手に触れる。


『私は、生きるために悪鬼になるの。』


そのまま真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ、深紅の瞳で十蔵を見上げた。静かに彼の瞳が開かれれば、逆に微笑みを。


『だから、守ろうなんて思わないで、貴方の背中守らせて』


それは呪いにもにた言葉。
彼女が幾度も彼に投げつけた呪詛。あの日からの誓い。あの日からの違い。


「…あなたは、」
『ね。私にあなたを守らせて。」


するりと、指先が十蔵の心の臓の上を撫でた。


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