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爆発とともに幕は上がった。
けれど、徳川方の作戦を知っている真田勢からすれば、その攻撃は見破るもたやすい。

敵の混乱を、誘導を難なくとやり遂げてそして、ものの見事に真田丸の前には屍の山が出来上がる。
鉄砲隊を指揮しながら、十蔵は信繁の姿を見る。彼のそばには六実がいて、彼を護っているのをみて、また前を見る。

前線では鎌之介が、佐助が、伊佐や青海が、それぞれおのおのの場所で闘い敵を散らしていた。

その中で、彼女の姿は見つからない。
それは仕方がないことだ。作戦の中で書かれていたあの場所は、この真田丸から少し離れたところだった。
混乱する敵味方の中をかいくぐるぐらいであれば、彼女のことを知っている部隊とともに戦っていたほうがよっぽど安全だともいえる。彼女の髪は豊臣の色だ。そうそう見間違うことはない。けれど、あの日見た傷は、明らかに生死をさまようもので間違いはなかった。彼女は笑んでいたが、本当に平気なのだろうか。

信繁の作戦の言葉が遠からず聞こえる。六郎や多くの面子に指示を出しているのを聞いた。

そのときだ、爆発音に、その場が揺らいだ。
はっとして振り返ればそれは真田丸から少し離れた、松屋町口の近くだろう。
確か、そこには伊達が陣を組んでいた。そうおもって十蔵が振り返ったとき、信繁としっかり目があった。


「十蔵、行って来い。」
「!」
「そんな動揺している様を味方に見せるな。あいつをつれて戻って来い。」 


真剣だったが、信繁の口元は笑っていた。
それを見て、目を見開いてしまったが「ここは僕がやるよ」と傍らに六郎が立っていればもう十分だ。
「すいません。」と一言言って、十蔵はひらりと高台から地面に降りた。










あぁ、私はおかしくなってしまったんだ。

そう思ったときには自分は火の衣をまとっている気分だった。
空砲が聞こえて、炎を巻き上げた。その瞬間から体の中がうずいて、うずいて仕方ない。


『(迦具土さまの、ご加護かしらね・・・)』


桜色の羽織をたなびかせて、銃を連射する。敵がどの位置にいるのか、どの速度でくるのか、「音」でわかる。
正直、真田丸から遠いここでどれだけ持つかと少々不安ではあったが、これは・・・


『(いける・・・)』


わかるのだ。相手の心情が、「相手は女」だと「間合いに入ればいい」と思っているその考えが、手に取るように、聞こえてくる。
地をけり、袖口に潜ませるそれをこぼしていく。銃声が、金属のぶつかる音が、足音が、刃が空を切る音が、すべてを教えてくれる。どう進めばいいか、どの場所が静かか、すべて、すべてわかるのだ。

間合いに入り、針手裏剣でのどをめがけ突き刺して、そのまま敵を踏み台に空中へ飛び、刀を下段に構える敵へ銃弾をみまう。そのまま回転しながら連弾し、銃弾をいれかえる隙を狙ってきたやからは手裏剣を飛ばした。

そうして、回る、舞う、廻りまわって、


『護り、闘い、愛しき子らを、どうか、どうか、救いたまえ。』


口ずさむのは、祈りの歌。


『炎渦巻く、この世の末に、泰平という名の、光あることを、』


くるりと振り返る。今にも飛び掛ってきそうな兵たちを見て、市は口元を吊り上げて微笑んだ。
しっかりと目が合い目の前の兵がその瞳を開く。


『願わくば、愛しき子らが笑めることを。』


そのまま銃を地面へと発砲した。
瞬間、大爆発が起きる。断末魔。強烈な肉の焼けるにおい、けれど市はその笑みを崩すことがなかった。

炎は広がっていく、広がり、それは絶叫となっていく。
その炎を背に振り返り、市が歩き出せばその女の「異常」さに、大阪城へと近づいてこようとしていた徳川の兵たちが悲鳴を上げた。彼女を追うように、炎が迫ってくる。


『贄とささげし、咎の身は、たとえ、悪鬼と化けようと。我、決して辞することなし。』


そのまま桜色の袖に引火すれば、その姿はまるで火の鳥のように、ゆらりと彼女の瞳が翡翠から炎のような赤に変わっていく、銃を片手に、突き刺さっていた刀を抜いた。刀は獲物として使ったことはあまりないが、今の彼女にはそんなことは関係はないのだ。


『さぁ、私と一緒に業火と踊りましょう?』


その姿はまるで−−−




「市!!」


瞳の色が、新緑の色を取り戻す。はっとしたように市が振り返れば、彼女の衣についた炎を消すように何かがかぶせられた。
瞬間、いくつかの爆発音。そして浮遊感に市は静かに目を閉じる。
あぁ、見つかってしまったと、そう思っても遅い。
もう少し後に来てくれたのなら、もう少しまともな姿で会えたのかもしれないと、そうは思ったが仕方ないだろう。

あぁ、けれど。


『(痛みも、熱さも・・・何も感じなかった・・・)』


きっと今はあるやけどもすぐになくなってしまうだろう。それは、ひどく恐ろしいことだ。けれど・・・今はありがたいと、そう思ってしまったのだ。




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