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「っ十蔵!右から撃て!!才蔵は左からだ!!」


彼の一喝。
ついで、銃声。それをしゃがんで交わした白蓮だったが彼に迫るのは才蔵だった。
金属音。はじかれはしたが、そのまま剣戟を繰り広げている。

真田丸より少し離れたその場所で白蓮と安房守と戦う真田忍。
そこへと声をはり、やってきたのは信繁と六実だった。


「一瞬たりとも隙を与えるな!佐助、安房守の動きに注意しろ!」
「わかってます!」


すでに策を練り、次々に指示をだすその様に、白蓮の違和感がそのまま表情に出る。


「先ほどまでとは明らかに別人だな。何があった?」
「聞かれて、素直に手の内を明かすとでも思うか?」


それは、彼が信繁と直接対峙したからこそわかることだ。
そのまま安房守へと視線を向ければ「お前はどうみる?」と率直に意見を求めていた


「・・・憶測ですが・・・おそらく、何らかの方法でワシとよく似た力を得たのではないかと」
「なるほど、死してもやはり、親子ということか」


一拍おいて、白蓮が六実をにらんだ。ひどく氷のように冷たい目だ。「信繁にその力をもたらしたのは・・・お前か?」と殺気をはらんだその声色に、六実がひるんだが、彼女を守るように信繁が前に出て武器を構える。


「ごちゃごちゃとうるさい連中だ。もしそうだったとしても、おまえらには何の関係もないことだろ?」


「お前らは、ここで死ぬんだからな」と朱色の十字槍はまっすぐと敵に向けられた。
その言葉と同時に、周囲を取り囲む真田忍も武器を構え直す。


「大きく出たな。多少の力を得たところで、この俺に勝てるとでもおもっているのか?」
「さて、多少かどうか、試してみるか?」


空間が切り取られたような錯覚だった。
まっすぐ白蓮と信繁の視線がぶつかれば、瞬間、


「御頭首、そろそろ刻限です。」


静かな声が終焉を告げる。
薄らと空がしらみはじめているのを、彼は視線で白蓮に告げた。


「もうそんな時間か・・・。雑魚相手とはいえ、少々遊びすぎたな。」


まるで、おもちゃに飽きたように息をつき、血振りをして白蓮は刀を鞘へと納めた。そんな白蓮の様子に信繁は武器を構えたまま「どこへ行くんだ?逃げる気か」と彼に一歩。


「逃げるだと?つまらん冗談を。人を凌ぐ生き物がお前たちを恐れる必要がどこにある。」


「それよりも、別の心配をしたほうがいいのではないか?」と口許に弧を描いて告げる。薄ら空がしらけはじめているのは戦いの予兆でもある。


「徳川方の旗印が動きつつあるようじゃぞ。あの家紋は、どこの家のものじゃったかのう」


それは安房守の言葉だった。
白蓮へむけられていたその視線は別の、彼が示していた方向へ信繁を誘導させる。それは信繁だけではない


「あれはたしか、前田家の」
「確か、南条とかいったかの?我々が間者として使っておった男じゃが、かのものが火をつけ、それを合図として徳川方がこの城に総攻撃を仕掛ける手はずになっておるが」
「何ですって!?」


十蔵が目を細めて告げる。
彼の記憶のなかではその部隊は篠山を挟んで真田丸に一番近いところに陣取りしていたはずだ。
けれど、こうして真田丸から離れたところで聞いたその真実は平常心を奪う。焦った顔で信繁を振り替える彼の顔を六実は見た。


「事前の策では敵を引き付けて一気に叩くつもりだったようじゃが、もうそんな猶予もないのう。さて、どうするつもりじゃな」
「その程度の策。読めない俺だと思ったか?南条が裏切るってんならそれを利用して敵を真田丸に引き寄せて叩くだけだ。」


実際、突然火が上がればパニックになるだろう。
けれどそれをものともしないように信繁はむしろ笑みを浮かべる。それはあちら側も同じらしい。


「ほう、そうきたか。ならばみさせてもらおう。お前の戦を。」


すでに白蓮は少し離れたところまで歩いていた。
彼にとってはどうでもよいことだと言わんばかりに。安房守も同様に身を返そうとしたが、とまる。


「一つ、忠告しておこう。お前の得た力は、彼岸の住人となった者ーー我々死人のみが扱うことを許される力じゃ。生者の身でその力をむやみに使うと己の首を絞めることになるぞ」


それは、親から子への忠告のようなものに六実は感じられた。
「脅しのつもりか?」と問うが「さぁ、どうかの。」と曖昧な言葉を最後に安房守も白蓮も霧に紛れてその姿を消した。


「っノブさんさっきの話が本当なら早く戻ったほうがいいんじゃねぇか!」


緊張の糸が切れる。
声をあげたのは鎌之介だ。彼らが言ったことが本当であるならば今ここにいるのは不味い。今から大阪城に戻る暇もない。ならば、、、

羽音。


「っぅわ」


それは真っ直ぐ十蔵めがけ突進していった。突然どこからともなく現れた鳩に回りは驚くのだがその鳩を宥めた十蔵はその足にくくられている真田紐をみて静かに目を見開く。
そして一緒にくくられていた手紙をそのまま解いて信繁に渡せば「あのじゃじゃ馬はおとなしくできないのか」と口もとをつり上げた。


「変更はなしだ。持ち場につけ。俺たちの戦を始めるぞ。」


くるりと身を翻した信繁にその場にいた全員が返事をし、佐助たちは散る。
信繁のあとに続いて十蔵と六実は真田丸にもどるが、十蔵は手紙の入っていた筒の奥にあったそれを取り出して短銃へとおさめる。


「あの、どうしてそんなに落ち着いていられるんですか。いつ攻めてくるかもわからないのに」
「あの子がネズミを討ち取ったらしいですから」
「え?」


六実の前に差し出される紙。
それは、今や十蔵の肩に乗る一羽の鳩が持ってきたものだ。
そこには安房守がいっていたであろう作戦。そして合図を待つと記載された文章と伝令済という三種類の文章。

そう、それこそすべてを逆手に取ったと、



「十蔵。」
「御意」


真田丸へ入場し、信繁が彼へ告げる。一つ返事で返してうすら明るい空へと銃口を向けた。




爆発とともに、戦場の火蓋はおとされた。



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