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口布をつけ、長い髪を結い上げた。いつもの装束に腕を通して足の止め具に銃を差し込み袖口に火薬を
輪を回すということは、傷を治すということだけじゃなかったらしい。神経すらも活性化させたというならば、それはひどくありがたいことだ。


『・・・これで、私は思う存分働ける。』


口元を吊り上げて、身を返した。向かうのは自分の居場所として決めた空に近い場所だ。


『・・・導きませ、ヤタノカラス。我、その導きなるままに、迦具土様とともに歩むものなり。』


鳥だからこそ、高いところへ。そして遠くを見渡して、獲物を捕らえて見せる。ひとつかごを持って気配を消して、静かに戸を閉めた。




あぁ、やはり寒いのは苦手だ。
冬空は高く美しいが、風が冷たいのには少々堪えると、市は籠を体の中心にして身を縮ませる。
いつもならもっている懐炉はあの時血まみれになって使えなくなってしまったからこそ、けれど、この寒さは耐えられないほどではないなと夜の戦場に目を光らせた。


妙だと思ったのは、少ししてからだ。
佐助たちがよそに出ているのは知っている。真田丸がぎりぎり見える場所ではあるのだが、どこか・・・


『いやな予感がする。』


そう思ったのは、きっと導きだと瞬時にそう思って地を蹴った。ふわりと降りるように、屋根の上を突き進んでいく。
そしてその予感に気がつけたのは、音だ。


『(風が、騒がしい・・・?これは・・・どこ・・・)』


拾いたいと思えばいくらでも拾えると気がつけたのはいいことだ。どうやら、真田丸ではない、これは・・・


『(勝手場・・・?)』


ぴたりと足が止まった。まだ、日の出まで遠い。ならば、なぜ・・・?
本来ならば、真田丸へといければ一番いい。けれど、そこまで行く時間はきっとない。
気配を消して、火薬庫のそばまでよる。何人かには見覚えがある。たしか、彼らは


『(あらあら、謀反かしら・・・)』


人のことをいけた義理ではないが、ばれないように身をかがめて耳を済ませた。
「彼」にどう伝えればいいか


−−−予想通り、外での戦に備え、ここの警備は薄い。
−−−皆、準備はいいな。後は計画通りに油をまいてから、一斉に火をつければ


なるほど、とそのばから飛び降りた。
彼らの背後に音もなく降り立って見せて『すごくいい暖がとれるわね』と告げれば、声を発していた男が驚きざまに振り返る。


「か、鴉殿・・・!」
『謀反は、いけないことよ。ねぇ、南条元忠殿?』


一歩踏み出して彼の胸にまっすぐと、つきたてた。
急所を問答無用で攻撃され、ごぷりと血を吐いたが、ついですぐに市は振り返れば、その手には、銃。敵の急所を間違いなくついて絶命させる。
衣に一切赤は散らなかった。


『・・・さて、徳川の内通者がいてってことは、きっとこいつらが合図を送るってことだったのねぇ。』


もう命をとめた屍をごろりと転がして懐を探る。そうすれば大切に折りたたまれた紙を発見し、息をついた。

ここで炎を炎上させ、外にいる部隊の気を引く。そしてその間に南側から攻撃を仕掛ける。
要約すればこんな内容だった。

その内容を頭に叩き込んで、市は大切に籠の中から一羽の真田紐を足に結ぶ鳩を取り出した。
指先を噛めばわずかに血が流れ、その血を棒手裏剣にたらして紙に「南条裏切。準備ができたら空砲を」とつけたしその鳩の足にその手紙を結びつけ息をつく。


『真田丸にお願いね。』


そしてそのまま、風に乗せるようにその鳩をまだ明るさの無い空へと飛ばした。


『さて・・・私も準備をしなくちゃね・・・炎の扱いならお手の物なんだから』




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