26

信繁と十蔵と市と。三人で今後のことについてまとめるのはいつものことだ。
九度山からそうしてきて、それは今でも変わらない。


「真田丸の完成は思ったよりも早くできそうですね」
「あぁそうだな。」


図面を見ながら二人は語る。その様子を見ながら市は静かに作戦の練られている図面を見た。もともと後藤軍がその場所を得ていたが、条件によって真田に明け渡された場所。

敵の最前線であり、もっとも敵が狙ってくるところにこの場所はある。
だからこそ、篭城してやり過ごそうと考える武将たちのしりをたたく意味でもあるのだが、それが吉と出るか凶とでるかはまだわからない。

ただ、市としてうれしいのは、銃を使う場所を多く作ってもらえたことだ。長銃は苦手だが、己が使う武器を重要視してくれていることが何よりうれしかった。
それに、この場所ならば十蔵も本来の力を発揮できる。とはいえ、問題はこれだけじゃない


『ひとつ心配なのが、あの連中ね。』
「白蓮率いる、鬼火衆ですか。」
『それ以外にいるかしら。』


鬼火衆。
彼らは裏柳生。ということは徳川方だ。
巌流のこともあるが、あんな化け物が多くいるのであれば、一平卒など手も足もでないだろう。一騎当千ともいえるその力をどこに当ててくるか、といえばもちろん、この場所だ。そもそも、どんな手を使ってくるかまだわからない。


「たしかにやつらは厄介だが、お前たちがいるならばそう心配もいらんだろう」


だが、市の心配をよそに、信繁はそう告げる。それは、確かな信頼と、そして確固たる自信だ。
きっと、これを聞いたら鎌之介や才蔵、佐助はさぞ喜ぶだろう。けれどこんな言葉をなかなかはかないのは若干の抵抗があるからだ。


『みんなの前でそういうこといってあげればいいのに。』
「誰が言うか。」
『ふふ、そうでしょうねぇ』


小さく笑って市はとんっと指をさす。図面上、そこは真田丸の出入り口だ。


『奴さんが狙うのはおそらくここだと思う。配置は。』
「鎌之介だ。あえてそこを狙わせておいてある。」
『なら、私は外にいかせて貰ってもいいかしら?』
「あほか、お前は俺のそばで警護だ」


鎌之介ならば、安心できる。そう思いいったのだが、その提案はたやすく却下された。
静かに目を細める市に十蔵が「なら私のそばで鉄砲隊を指示してください。あなたがいれば彼らの目が変わります。」という。
けれど、そういうことではない。と首を横に振りたかった


『信繁様の警護だったら、私ではなく六実ちゃんが適任だと思うわ。』


信繁の警護を任せられるのは光栄だ。砦として彼を守れるのであれば普通ならば本望だろう。けれど、自分は戦に生きる身なのだ。だから、戦に、前線に出たい。ただ、そう思ってしまったのだ。きっとそれは、彼らもわかっている。だが是とはいわないだろう。それは、彼らの優しさだから。





嫌な予感がすると、背筋がぞわりと泡立ったのはそのとき。
その場から立ち上がり、周囲を見渡す。
建設途中の真田丸は今は真田の家臣はおろか見張り役の数名しか残していないはずなのに、大勢いるような圧迫感を感じたのだ。

誰かに、見られている?


「市?」
『・・・十蔵は、ここで信繁様と一緒にいて。』
「っ待ちなさい!!」


もともと、人の気配に人一倍敏感だったのは市だ。だからこそ、九度山で六実が近くにいるなと思えばその場から移動していた。
そして、脱出の時もそうだ。だからこそ、後衛での守りに転じていた。それを一番知るのは、十蔵である。

彼女を止めようと手を伸ばしたが、その前にするりとぬけ、つかむことはできなかった。
つかまなければ、と。そう思ったのに。


「・・・いきなりどうした。」
「・・・あの子の直感は変に働きます。・・・信繁様」
「あぁ、俺は大丈夫だ。いけ」


たったそれだけだ。それだけだったが、それでも信繁に十蔵の意は伝わった。「ありがとうございます」と礼をいい、市を追って走りだした。


深い霧が広がるその場所は−−−−


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