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敵の数はだんだんと減って行く。
たいまつ代わりに庭に放った炎はすでに燃えきっていたが、闘いはその少しこげたその場所でも続いていた。野外に出たことで十蔵の火縄も使えるようになる。戦線は有利を極める一方だ。

けれど、何かの合図にさっと数の少なくなった敵が退散して行く。
それをにがしてなるかと追いかけた先にあったのは、異様。そう取るのが一番なのだろう


「待ちやがれ、このままにがすとでもおもってるのか!?」
「おまえが、この連中の親玉か、この霧隠才蔵に挨拶のひとつもなく退散とは、なめられたものだ。」


裏柳生たちの中心。
そこに居たのは長い髪の男だった。才蔵の持つ刀とは違う、長さ的には大太刀に匹敵するその刀を手に、もう片手には「何か」を持っている。
男は一点・・・才蔵、否、彼の使う刀を見て口を動かして、


「この、巌流(がんりゅう)に・・・勝利する剣など、あっては・・・ならない! この世で、我にマサル剣術、無し」


そうして、刀を構えた。
首と名の付くその箇所に、鎖が巻きついているその姿はまるで、


『(どこかに、捕縛されていた?)』


小銃を持つ手が震えた。
見慣れていたはず、慣れていたはずだったが、それでも、その異様さは人知を超えたもののように思えた。




才蔵と幾多か剣戟を交わし、彼の剣は確かに巌流と名乗ったその男の身体を捕らえたが、血すら流さず。
「目的は果たした」と亡霊のように裏柳生とともにこの場を立ち去った。







信繁は巌流を追うことをよしとしなかった。
闇にとけていくその集団を見送り、その姿が消える


「・・・っくそ」


鈍い音。
それは信繁が近くにある壁を殴りつけたから。


「わざわざここまで忍びこんできて、俺を殺さなかったのは、何故だ?俺みてぇな雑魚は、手を下すまでもないってことか?・・・・ふざけやがって!」


珍しく、怒りをあらわにする信繁に、不安そうに六実は彼のそばでオロオロとしていた。
けれど今日はよく来訪者が来るらしい、と思ったのは市が視界の先にその男を見つけたからだ。


『遅いおでましね、甚八さん。おかえりなさい』
「おう、戻った。・・・随分と騒がしいようだが、取り込み中か?」


銀色の髪に白い羽織を肩からかけ、その男はそこに居た。聞きなれない声に振り返った六実と、苛立ちのまま、現れた男を睨みつける信繁に、十蔵はため息を付く。


「いつ、此処に戻ってきた。敵がトンズラした後に来るなんて、相変わらず間の悪い奴だな」
「見てのとおり、今、来たばかりですが・・・敵ってのは?徳川の手の者ですか?」
「大方、そうじゃないかと睨んでる。ったく、今日は嬉しいのやら、嬉しくないのやら、客が大勢きやがるな」


信繁の表情は疲れきっていた。仕方がない。大阪からの便りに、乱戦に、大切な父の遺骨まで盗まれた。
考えることは山ほどあるのもあるが、なにより敵の目的が全くわからないのが一番の心残りなのだろう。

ともかくとして、血まみれになった広間ではなく少し狭いが客間に移動して話し合いをすることになった。


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