白い部屋の真ん中に、円柱の水槽。
そこにこの白で統一された部屋のなかに異質ともいえる黒い髪の少女がいる。
水槽の中で黒く長い髪を漂わせ、白いワンピースを一枚纏った少女は、その中で静かに眠っていた。

そんな彼女の姿を見ながら、少し離れた場所にあるソファーに座り、白い男は美しい指で白い塊ーマシュマローをいじりながら口許をあげる




月日がたつのは残酷なほど早い。錆びていた時計が動き出すのはあと少し。されどそれは壊れかけ。

無理に動かす、それは………



ゆるりと、水槽の中で少女はの瞳が開かれる。
元々灰色だったその瞳は、彼が愛した色を濃くし、アメジストに似た色に変わっていた。
覚醒しない意識の中、ぼやける視界で重力のないその狭い世界を遮る己を囲う透明な壁にぺたりと手を触れる。

かつかつとブーツの底を響かせながら、白い男がその水槽に近づいて、彼女の触れるその場所と同じところに手を重ねた。


「おはよう、眠り姫。」


歪む世界の中で男が何をいっているのか、首をかしげる少女に微笑んで、男は水槽のすぐ横にある機械を弄った。足元に消えていくガラスと、下がっていく水位に何年も眠っていた少女の衰えた筋力では己の体重すら支えきれず水がなくなると同時にぺたりと水槽の底に座りこんだ。
流れ出た水で靴が濡れるのは全く構わないのだろう。同じ目線になるようにしゃがんだ男はにっこりと笑う。


「初めまして、沢田なつみチャン?」


驚いたように目を見開いた少女が声をはっそうとしてもそれは叶わなかった。使われていない器官は筋力と同じように衰える。
びしょびしょの体を抱き締め、体をちぢこめたなつみに「あ、ごめん、寒かったよね。」と上着を脱いで彼女にかけて、立ち上がれない彼女の体を抱き上げた。


「まずは体を温めて、それから着替えようか。」
『っ、っ、』
「あぁ、ごめんごめん!僕は白蘭。キミの味方だよ、だから安心して?」


さも軽々と抱き上げられて驚く彼女にさして気にしていないように彼ー白蘭ーは名乗る。
反復する音もないなつみを知ってか知らずか、彼は笑顔のまま。


「キミはボンゴレを追放された。その身を捨ててまで守ろうとした実の兄にすら見捨てられちゃったんだもんね。頑張ってたのに、誰もキミを見ようとしない、認めようとしない、酷く生きづらい世界でキミは十分に頑張ったんだ。キミはいい子過ぎたんだよ。」



ーーもっと世界を恨んでも、憎んでもよかったんだ。



さらさらと流れる言葉に、アメジストの瞳が揺れる。力の入らない手で彼のワイシャツを弱々しく握り閉めてしまうのは、

深いところで眠っていた、押し込めていた感情が音をたてて崩れていく。


「キミはずっと頑張ってたんだ。ただ、自分の居場所が欲しいだけだった。欲深く多くは求めなかったのにそれすら叶えてすらもらえなかった。僕ならキミの居場所を作ってあげられるよ?」


まるですべてを理解している様に、




ーー白い悪魔は無垢な姫に囁いた。



ーーーあぁ、でもまずはキミが声を取り戻してから自己紹介をしようか。



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