きっと彼女は誰かのための偽物だということに、誰から言われずともずっと気がついていた。

いろんなものを知っていた、見ていた。聞いていた。それでもそれを言わなかったのは言ってはいけないとわかっていたからだった。

美しく伸ばした黒髪。そのなかでも色素の薄い瞳は酷く目立ったのだが、彼女が愛した人はその瞳の奥に自分の色を見つけて他人にはわからないほどやわらかく幸せに笑ったのだ。
だから、彼女はその時に初めて毛嫌いしていたその色が好きになれた。

何度罵倒されようとも、虐められようとも。
ーー片割れは笑っている。

命が狙われようが、怪我をしようが、
ーー片割れを守ることができる。


疫病神だと、悪魔だと言われてようが、
ーーそれでも私が幸せなら幸せなの


彼女はそう言って静かに、大好きな雲が隠す腕の中で多くの滴と嗚咽と本音を漏らした。それでも、次の日にはけろりといつもどうり。 それは、隠された彼女の本心が見れる唯一の居場所だった。


「死んでくれればいいのに」


けれど、初めて言われたその言葉は、彼女の最後の心を壊した。
あきれたように、さも、赤の他人のように告げたのは本物の兄であって、その時初めて自分はそんなにも要らないものだったと、実感してしまったのだ。愛しい人のことすら頭の片隅に追いやられてしまうほどに、衝撃的だった。

そして、選んだのは、選んでしまったのは、


『そっか。そうよね。』


そう、知っていた。最後だからと視線をそらされた片割れをただまっすぐみながら、下がっていく。
だんだんと色を失っていくその世界に、酷く「ーーー」を抱きながら、背について寂れた音をたてたフェンスに片割れが目を見開いた。
視線がこちらを向けば、たしかに、その目とあう。


『さよなら、お兄ちゃん。どうぞ、お幸せに』


最上級最大級、貴方の大嫌いな笑顔を。
そのまま何かが壊れる音を聞きながら背中から世界の終端に落ちていく。耳に掠めた「やめろ」という否定の言葉は誰の声か……

けれどやっと終われるとほっとして、世界を黒に染めたのだ。









ーーーそう終わるはず、だった。終わったはずだった。

円柱の水槽を愛しそうに撫でながら、時をこえて白はえむ。




そう、あの日。
手にかけたのはきみと共に過ごすはずだった日々



ーーーー




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -