*Side Hibari


緊急で呼び戻された。
元々、はやく仕事を切り上げて、朝には戻れると思っていたけれど、哲が「沢田さんから緊急です!!」なんて車を飛ばしてきて、おみやげのひとつでも買って帰ろうと思ったのに、それができなくなったのは痛い。

けれど、だ。


「なに、これ。」
「フリージアがやったんだってさ。これ。」


凍りついた廊下。そこだけ異常で、完全に体感温度が真冬だと感じる。
屋敷に戻ってきた僕に告げられた山本武の言葉に、思わず睨んでしまったのは仕方がない。
何があった、何をした、一体彼女に、とは思っても山本武もずいぶんと難しい顔をして、その氷の先を見つめていたから、きっと、この男も知らないんだろう。


「小僧がフリージアと話をした、らしい。その時に、怖がらせちまったみたいで、炎の力を暴走させちまったそうだ。俺の炎じゃ逆に凍るし、無理に溶かしちまう大空と晴は使えない、壊しちまうってことで雷と嵐も論外。クロームと骸の霧は拒絶されちまってて、お前が戻ってくる前にどうにかって思ってたんだけどな。」
「待って、じゃあこの先にあの子がいるの」
「あ、あぁ、っておい!まて!雲雀!!」


そんな説明をするぐらいだったら、さっさと彼女を助け出してほしかった。
一歩踏み出せば、ぱきっとなにかが割れる音がする、
その氷の空間に入れば、体感温度はもっとぐっと下がった感じだ。
こんな寒いところに、あの子がいるのかと思うと、あぁなんで一人にしてしまったんだろうという後悔の方が強くなる。

彼女との距離はそんなにない。
けれど、氷の壁がたしかに彼女を守るように広がっている。

リングに炎をともし、その氷に触れれば、ふわりと溶けるでもなく、昇華されて雲の炎に白が混じって消えていった。あぁ、彼女の恐怖が固まって氷になって、雲の炎はその氷を雪に戻して隠す、というわけか。
ならば、と、リングに思いを懸ければ紫の炎がその場を包む。


「フリージア。」


体を縮こませて、泣いている。肌の至るところが、白く凍ってしまっていて、見ているだけでも痛々しい。

彼女の目の前までいってそっと白く色を変えているその場所に手を這わせれば本来の色を取り戻しながら、…けれど、体温は低いままに彼女の氷が溶けていく。


「フリージア?」


呼び掛けて、反応がない。もう一度と名を呼んでみたが、彼女はまるで固まってしまったままだった。

氷が溶けて、こちらが見えるようになったからか、山本武以外の気配も感じるが、今はどうでもいい。


「…なつみ。」


そっと、「名」を呼んだ。そうすれば、ぱきっと音がして、ゆっくりと顔が持ち上がる。
紫水晶の光を失った二つの宝石が、僕をうつして「恭さん…?」と手が伸ばされて、その手は、僕のほほに這った。
痛いほどに冷たい、その手が。


「独りにしてしまって、ごめんね。ただいま、なつみ。」
『…恭、さん、恭さん…っ!』
「うん、うん。ごめんね。こんな場所に独りにしてしまって、怖い思いをさせてしまって、ごめんね。」


上着を脱いで、その凍えきった体にかけて、抱き締める。
触れるところすべてが冷たい。いったい、この子の体はどうしてしまったのだろう。
これが、雪の炎の力、生命力といわれる炎の力の相乗の力であれば、負担が大きすぎる。


『…恭さん。』
「なんだい?」
『おかえり、なさい。約束やぶって、ごめんなさい』


ぎゅぅっと、彼女からしがみつかれて、その体を改めて抱き締めた。
けれどそのまま、手の力が抜けたのをみて、気を失ってしまったんだなと複雑な思いだ。


「雲雀、やっぱりフリージアが、なつみ。なんだよな」
「そうだけど、違うよ。」
「でも、今。」
「彼女が、「沢田なつみ」としての過去が不要だと思って捨てて、「フリージア」っていう居場所で新しく歩みだそうとしているのだったら僕はそのすべてを、まとめて愛してる」


抱き上げて、体に寄りかからせた。寒いからか身を縮める彼女を守るように。
振り返った先にいたのは山本武だけでなく、沢田と獄寺隼人。
何かを言いたげに僕を見る彼らは無視することにした。


目を覚ましたら、彼女は今のことを覚えているだろうか。


190222




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