彼は、本当に忙しい人らしい。
学生時代も、暇を持て余すような人ではなかったけど、やるときは早期にやって問題が発生すればすぐに動けるようにする人だった。

今回は、問題の方。
朝に出ていって、そのままケータイに入った「明日には帰るよ」というメッセージに苦笑いしてしまったのは、仕方がない。

日が落ちて、外は夜。
酷く静かでだからこそこっそり抜け出そうと思った。
自分を心配してなかなか一人にしてくれないから、だからいないうちにしか探せない。


『…あの景色は、どこなの』


 夢のなかで見たあの景色は昼間だった。
昼と夜で大分景色が違うように見えるから、すぐに見つけられるか不安ではあるが、彼女-ネーヴェ-が言った言葉がその真意が、今の私には必要なことのように感じるから、探したいと思ったのだ。

白蘭の告げた眠り姫。そしてネーヴェが初代雲の守護者に告げた「眠りにつくだけ」そして「未来で眠るお姫様」という言葉。
間違いなく関連性がある。因果応報ということであれば、きっと彼女もどこかで眠っているんじゃないか。それはこの、ボンゴレ邸のどこかで…

暗い廊下を進んでいく。
けれど寒くて仕方ないのは、夜だからか、それとも最近の自分の体調不良のせいかわからないけれど、それでも…


「どこにいくつもりだ。」


カツン。
廊下を靴が叩いた。聞こえてきた声に、振り返る。
そこにいたのは自分が知らない男だった。
ボルサーノをかぶり、こちらを見ている姿に見覚えはない。けれど相手は自分を知っているらしい。ということはどこかであったことがあるのだろうか。


『…誰?』
「日本語で話すってこたぁもう隠すのはやめたのか?」
『質問してるのは私です。あなたは誰。』


暗い廊下で二人だけ。
沈黙の中ぴりぴりとした空気をまとうのは、完全に目の前の人の素性を知らないからだ。
…どうしたらいい。 彼はボンゴレの人間で間違いはないだろうけれど…私のことを疑っている人…なのだろうか。
あまりにも情報が無さ過ぎて涙が出てきそうだ。どうして、こんなことになってしまっているんだろうか。


「この姿じゃわかんねぇか。お前の兄貴のかてきょーだった黄色いおしゃぶりのアルコバレーノだっていったらわかるか」
『アルコバレーノ?』


なんだ、誰だ。手首のブレスレットに触れてしまったのは怖いからだ。助けてと思っても、言いつけを破って外に出たのだから誰の助けも借りられない。


「…ん?お前」
『私のお兄様はとっくの昔に別れたきりだし、あなたのようなヒトは回りにいなかった。私はあなたなんか知らない。』


目の前の男が眉間にシワを寄せる、
何に気がついたのか、そもそもなぜ、こんな人気のない場所に一人でいるのか。

ふっと頭のなかに紛れ込んできたのは彼の心の声というものか、なぜ、読心術が使えないのかと、きっとそれは疑いだ。


ここの人たちは自分を疑っている。
疑われてしまうのは結局自分が「よそ者」で「認められていない」からだ。

あぁ、寒い。心が、寒い。


「なつみ。顔色が悪ぃな、なんだまだ体調悪いのか。」
『っ近づかないで!!』


ふわりと指先に光が灯る。瞬間、爆発的にその光が炎に代わり、世界を凍らせた。なにかを察した彼が、一歩、こちらに来る。
凍った床がそれを音に変えた。


『お願い、来ないで、来ないで!!』
「っなつみ、」
『違う!私は、違う!!』


心臓の音が、耳元で聞こえる。
からだが震えて、寒さのせいで息ができない。

くるしい、くるしい。ボロボロと涙がこぼれて、視界が定まらない。


「リボーン!? っなにこれ!!」
「バカツナ!今はくんな!」


聞こえてきた声と複数の足音に、体に恐怖が走る。
私が起こしてしまったこの行動は、間違いなく疑いの目を向けられても仕方がないものだ。
だって、私は、


「なつみが、やったの?」


はっきりと、その目と目があった。
信じられないといった、その目が、確かに私のことを写している。


『いや…そんな目で、みないで…っ』


体にうまく力が入らない。
膝から崩れ落ちた彼女に綱吉が慌てて近づこうとしたが、近づいた先から凍った床が溶けて、それに気がついたリボーンが綱吉を止めさせた。

氷が彼女を守るように逆さつららを作っていく。
明らかな、異常。


「ツナ、雲雀に連絡しろ、これは大空の出番じゃねぇ。雲の守護者の仕事だ、」


床に座り込み、その体を小さく守るように抱き締めるなつみの髪が、静かに氷の粒を作り上げていく。
完全に下を向いてしまっているせいでもう少女の表情をうかがうことはできない。
けれどその元々白いはだが、だんだんと氷の膜におおわれていく。綺麗な黒髪に霜がかかっていく。不安と、恐怖がまとわりつく。


「なつみ…っ」


あぁ、どうしてと、

近くにいるのに届かない手がひどくもどかしかった。


190222






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