セピア色の世界とはよく言ったもの。
思い出のなかの写真を見るような…その景色のなかに私がいた。
これは「なにか」と疑問しか生まれないが、この場所にはよく見覚えがある。
『ボンゴレ邸…』
ポツリとこぼして歩きだす。世界はセピア色のままだが、間違いない。
このながったらしい廊下はボンゴレ邸だ。…なぜ、私はここにいるのだろうか。
「ネーヴェ!!」
突然聞こえた聞き覚えのある声に肩が跳ねた。
弾かれるように声の方向、背後を見ればセピア色の景色のなかに、たしかな色を持った二人がいる。まっすぐこちらに歩いてくる黒髪で白いドレスをまとった女性と、白髪に黒いコートを持つ、私もよく知った顔のヒト。
私は見えていないようでそのまま体に触れることなく、通りすぎた。
「待ちなっていってるだろう」
彼の手が、彼女の手を捕える。
さすがにそこまですれば、女性の足も止まるのだろう。二人が動きを止めればふぅっと息をはいて女性が振り返った。
「今さらよ、アラウディ。私は決めたことは曲げないってあなたが一番知っているはずよ。」
女性が告げる。
ネーヴェは知らないけれど、アラウディという名は書物で読んだことがある、初代雲の守護者の名だったはずだ。
「嫌というほど知ってるさ。それでも今の君が諦めるには早すぎるっていってるんだ。」
「しつこいわよ、私は。」
「君は決めたっていってるけど、僕も君の手を離すつもりはかけらもないって何度もいってる。」
まっすぐな紫色の瞳が、驚きを孕んでから視線を下に落とす。はらりと黒髪が彼女の表情を隠してわからない。けれど、その人の右手に光る雪のリングに…頭がずきずきと痛み初めて唇をかんだ。
「……でも、私はここにいちゃいけないのよ。例えアラウディが私の居場所になってくれたとしても、もう、「私」に時間がないの。」
これは、夢だ。過去に起こったことだ。おそらく、彼女は初代の世代の雪の守護者だったんだろう。だから、すこしだけ私と似ているんだ。
こんな因果応報があるものなのか。顔をあげた彼女の瞳から涙がつたったが、その涙はすぐに氷へと変わって砕けて、落ちた。
「アラウディ、あなたが私を見つけてくれなかったら、私はこんな暖かい思いも悲しい思いもせずに死んでいったのでしょうね。ごめんなさいね。たくさん愛してくれたのに、恩を仇で返すこと許してほしいの。」
「…ネーヴェ、君は」
「私は永い眠りにつくだけよ、ジョットやボンゴレの礎になるために」
「ありがとう」とネーヴェは微笑んだ。
するりとその手をほどいてまた前へあるきだす。けれど、その体を後ろから抱き締める。
逃がさないように、すがるように。
「冷たいね。まるで、本当に死んでいるみたいだ」
悔しそうに吐き出した言葉に小さく笑った。
くるりとその腕のなかで体を回して優しく、真っ白な手のひらで彼の頬にすべらせる。
「さよなら、私の王子さま。いつかその唇で、未来に眠るお姫様を目覚めさせてね。」
その手が彼の唇をおおって、その上から静かに口づける。
閉じた瞳が開いて、寂しげに微笑んでそのまま今度こそ彼の腕からすり抜けた。
その手が少しだけすけて、指に嵌めていたリングが、滑り落ちた。
190125
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