リングの力は曖昧だけれど、大体は分かった。
私が外に出たことは守護者には共有されたことだし、そしてその先はボンゴレの内部に広がり、そして私の「名前」も相まって、「疑い」の目を向けてくることが分かった。
仕方が、ない。だって私の素性は一切分からないのだから。
…それでも、体というのは随分と素直なのだ。
「今日も外に出れそうにないね。」
『ごめんなさい。』
雨のなか長時間外にいたこと、そして白蘭から告げられた「こと」に心も体もたえきれなかったらしい。あの日、屋敷に戻って恭さんの姿をみた瞬間にその体が崩れ落ちたのはまだ記憶に新しい。
貧弱というよりも免疫がないのだろう、そのまま高熱を出して動けなくなった。…本当に子の体軟弱…。
それでも、意識が戻るたびに傍には恭さんが居てくれて…あぁ、本当に…狡い。
暖かいその手が、しっかりと自分を繋ぎ止めていてくれることが、うれしかった。
「いいよ、君はなにも悪いことなんてしてないんだから。」
『でも、』
「君が体調を崩したのは紛れもない外野のせいだ。最初からこんな群れに君を連れ込まなきゃよかった。」
優しく、優しく。
「とにかく、今は体を休めたらいい。なにか食べたいものはある?」と頭を撫でながら告げられる。でも、今何も食べる気力もなくて、首を横に振れば、そのまま寝付かせるように目の上に手が置かれて、その暖かさに目を閉じた。
あぁ、出来ればこのまま…。ここにこうしていたい。
…でも、きっとダメなんだろう。私は、きっと幸せになれない。
だから、早くこの優しい人から離れなくては…。
*** *** ***
*Side Hibari
小さく寝息をたて始めて、彼女が意識を手放した。
それにため息をこぼしてしまうのは、自分が確かに怒りを抱えているからだ。
笹川たちが来たあの日。僕がしっかりと彼女を追いかけていればこんな苦しい思いをこの子がする必要はなかったのだから。いや。それよりも何よりも、
「君は、なにも悪くない。」
周りの目が、彼女に疑いを向けている。それはまるで昔のように。彼女が花の名だとか、あまりにも日本語に慣れるのが早すぎるとか、そんな憶測ばかりを叩きだして、いったい何をしたいのだというのか。この子がそんなことが出来るわけがない。
「染まりきれず、ファミリーの穢れを溶かし消える雪。ね。君には辛すぎるよね。」
彼女の指にはめられているのは8人目の印だ。しっかりと刻まれたその雪の紋章は、自分に一番近く、そして遠い。
「君は、僕が守ってあげる。だから、地上なんて汚い場所に堕ちて、溶けてなくなったりしないでよ。」
--雲雀、あいつは間違いなくツナの妹であり、雪の守護者だ。
---雪の守護者はどのファミリーの時にもいたわけじゃねぇ。雲に近しい人間であり、大空と対になる人間しかなれなかったんだ。
--その理由を、知りたいか?
赤ん坊に渡された古い文献を読み漁った。それだけじゃない。風紀財団を動かし、それ以上のこともしらべあげた。信憑性があるものも、ないものも、すべてだ。
そして見つけたのが、ボンゴレの雲のリングにぴったりと当てはまる鍵穴の日記帳。
もうずいぶんと古いものだとわかっていたが、それを持ちだしたのは明らかな確信があったからだ。だからこそ、一つ願うことがある。
「早く、元気になって。」
高熱で倒れたと思ったら、次の日にはまるで死んでしまったのかと思うぐらい、フリージアの体が冷たくなった。本当に死んでしまったんじゃないかと血の気が引いたが確かにその心臓は生きていると訴えていた。
ボンゴレの医療機関は確かに最先端をそろえている、眠っている間はそこでよかったが、いかせん、回りがうるさすぎた。だから、峠を越えたことが確認できたから、またこの部屋につれ戻ってきたのだ。
それでも……
「裏切り、スパイ、間者、いったいここの連中はキミを何に仕立てあげたいんだろうね。バカらしい。」
だからこそ、隠してしまおうと思ったのだ。それが許されるのは雲の守護者の特権だ。
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