其れは突然の申し出だった。


『ボンゴレの10代目さんがですか?』
「うん。君に会いたいんだって。」


 雲雀の足の間に座り日本語の小説を読んでいたなつみに、突然彼は言ったのだ。
それこそ、半分は忘れていたのだろうが、思い出して「そういえば沢田が君に会いたがってたよ」と告げる。ちなみになぜそれを聞いたのが彼の足の間かといえば、うたた寝していたところを抱き上げられ目を覚ましたらそのまま本が渡されたという経緯だ。


「もちろん会いたくなければ断ればいい。いっておくよ」
『ありがとうございます。恭さん。』


さらりと後ろからなつみの頭を撫でて雲雀は告げる。それに小さく笑いつつ、なつみは手元の小説にまた目をとおし始めて、閉じた。





#Side Tsunayoshi


 彼女が見つかってここに連れ帰ってきてからもうすでに1月になろうとしてる。
最初に姿を見て以来怖くて踏み出せないまま今になってしまったのだがもうすぐあの日なのだと考えるとどうしても会ってあの事を頼みたいと思った。

皆はすでに彼女と話しているということも、彼女は記憶がないということも知っている。
だけど怖くてやっぱりいくきにはなれなくて、だから雲雀さんを通じて彼女に伝言を頼んではみたのだけれどどうなるかはわからない。

他人任せにするあたり俺はやっぱりダメダメなままなんだろう。パラリと一枚書類をめくってため息をついた。

こんなになにもしてないのにも関わらず、いろいろ準備してしまったのかもわからない。
渡したいものも、話したいこともあるのに、


こんこんこん


「獄寺くん?どうぞ。」


ノックが三回。
その行為をしてくれるのはたった一人だとわかっていたから声をかけた。
きぃっと静かな音をたてて扉が開く。

いつもだったら「失礼します10代目」とかけられる声がない。ん?と疑問に思って扉の方を見て固まった。
 こちらを伺うように扉の隙間から顔を覗かせるこの場に似合わない一人の少女。
紫色の瞳はまっすぐに俺を見ていて、『お仕事中なら出直します』と---


「まって!大丈夫!今から休憩するところだから!!入って!!」


そのまま閉まっていく扉に慌てて立ち上がり叫んでしまったのは俺も緊張しているからか。勢いよく立ちすぎたせいで椅子がひっくり返ったのはみなかったことにしたい。逆に驚いてキョトンっとしてしまった彼女はそのままへらりと気の抜けた笑顔をくれる。


『失礼します。初めましてボンゴレ10代目さん。フリージアです。お世話になってます。』


部屋の中に入って、静かにドアを閉めてから言った。
聞き覚えのありすぎる柔らかいソプラノの声にぎゅっと心臓が締め付けられる。
いや、実際そうなんだろうけど、俺の犯した罪は重すぎる。こんな、笑顔を向けてもらっていいはずがない。


「…はじめまして。俺は沢田綱吉。日本語、話せるんだね。」
『山本さんと獄寺さんと恭さん、教えてくれました。驚きましたか。』
「うん。でも、難しかったでしょ」
『恭さんが日本語で話すと喜ぶから覚えるのはたのしかったです。』


初めましてという言葉にどもってしまった。彼女は平然と日本語を使っていて驚く。でも理由を聞いて納得したのはなつみも雲雀さんのためだったらいろんなことを勉強していたから。


『ご挨拶遅れてしまってごめんなさい』
「俺の方こそ会いに行けなくてごめんね。あ、よかったら座って?お茶いれるよ。」
『恭さんに怒られてしまうから大丈夫です。ありがとうございます。』


あの頃となにも変わらない。変わったのは俺と彼女の距離と時間。
そして立場もなにもかも…。


『10代目さんが優しいから恭さんも私なんかに優しくしてくれるんですね。』


にこりっと本当に嬉しそうに笑う彼女になにも言えなくなった。雲雀さんが優しいのは君だけだ。俺が優しい訳じゃない。そういえたら、いったいどれだけよかったんだろうか。


「…ねぇ、君にひとつお願いがあるんだけど、いい?」


俺は優しくなんてないから。


差し出したのは薄い水色のドレスに雪のリング。
きょとりとした彼女に伝えたのは半月後の俺の誕生日パーティに妹のふりをして出席してほしいということ。


190117




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