六道に落されて、気が付いたら傍に獄寺が居た。
山本が来ていたのを思えば、彼が来るのもいずれはとは思ったけれど、まさかそのまま日本語教室になるとは思いもしなかった。
それでも、記憶の底でよくにた光景を見た気がしたが…よく思い出せないのはずっと眠っていた弊害だと思う。
…それでも、ビアンキから彼が帰ってくることを聞いて正直昨日のこともあってどうしたらいいのかわからない。資料で彼が幻術使いであり、霧の守護者であるということは理解していて対処ができなかったのは自分の落ち度。それを言えばきっと彼は六道と戦うであろう事は目に見える。もともと、不仲だったということは知っていたし…。
ボンゴレに紛れ込めたのはいいのだが、当初の予定どうり自分のすんでいた場所に帰ると告げる。次の行動はそのあとでいいと包丁を動かした。
トントントントンと、軽い音を奏でながら食材を刻んでいく。
せめて、何かお礼をしたいと思ったから料理にしたけれど…、安っぽいから何か別のものを用意したほうが良かったかもしれない。でもお金も手段も無かったから、許してほしい。
*** *** *** ***
もしも、あの日襲撃がなければ別のタイミングにでも彼女に今の居場所を聞くつもりだった。それに数回しかあったことのない男のところに来るのは不安しかなかっただろう。
自分が受け持っていた仕事がまさかこのタイミングでバタつくとは思わず、結局半月も留守にしてしまった。連絡事態はいれておいたが、実際彼女がどう過ごしているかは把握していない。…それに哲に調べていたこともある。その結果も分かったから、これからは普通にするだけだ。
何度か二度見されながら、彼女が過ごしているであろう一室へ向かっていき、扉を開ければ、広がったのは食欲をそそる匂いだった。
料理をしているのか、とそう思いながらのぞけば、ちょうどなにかを焼いているところであり、その顔は酷く真剣そのもの。
気配を消したまま部屋のなかに戻れば少しだけ生活感が増している。ベットの側にある英語の本。飲みかけのペットボトル。開けっぱなしのクローゼットには僕が用意した服の他に新しいものが増えていて、恐らく毒サソリが用意したんだろう。
けれど、誰かがここで作業をしている、ということが一番なのだろうか。 飽きっぱなしの花瓶に一本の紫色のアネモネを生けた。
しばらくして水の音が消えてパタパタと走り回る音が聞こえ始める。それからなんの突拍子もなくその場所から出てきたが僕をみて、固まった。
「フリージア」
名を呼べば、嬉しそうに目を細めて走ってくる。真っ正面まで来てから『おかえりなさい。雲雀さん』と笑顔で告げられて、固まった。あぁ、本当にこの子は…。
「なに、日本語勉強したの?」
『少しだけ。』
「でもよくしゃべれてるよ。でも、雲雀さん。じゃなくて、恭さん。のほうがいいな」
優しく優しく頭を撫でながらそう告げる。『恭さん?』と雛鳥のように復唱した彼女に、感じるのは優越感。そのままポケットに手を滑らせた。
「これ、寂しがらせてしまったお詫びだよ」
ケースに特別入れてはいない。銀色に紫色のラインがまっすぐにはいったブレスレット。きょとりっとしたなつみだったが、するりとその手とってそのままはめる。白い手首に銀色はよく映える。
『わたし、もらってばかり』
「僕がしたいだけだからね。それに君から日本語が聞けただけ満足だよ」
『恭さん、少しだけ料理したの、うまくないけど。』
「君からならいただくよ」
それを優しく撫でながら彼女はいう。不安げに。だが、先程からなにか作っているのはしっていたから、そう告げれば『すぐ用意します』とまたぱたぱたと走り回る。
「(まさか、日本語を話すようになるなんてね)」
もう、君の前で迂闊なことはしゃべれそうにない。
190109
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