雲雀がいないその場所が酷く暇なのは仕方ない。
第一に、自分はここに囲われているわけで好きに動き回れないのもまた事実なのだからおとなしくしているのが一番正しいんだとおもう。

昨日あのままカフェで山本に日本語を教わりつつ、屋敷に戻ってからも買ってもらった日本語の小説を読み漁っていた。
ドリルもさらっと終わらせてしまったのは違和感を持たせないため。さすがに字の汚さには自分でも驚いてしまったからある意味ありがたいものであったのだが。あの頃から少し癖のあった自分の字がさらに癖のあるものになってしまったときには笑ってしまった。ごまかせるから、いっか。


『眠り姫、なんて馬鹿げたものをよこしたわね。』


ため息をつきながらページに意識を滑らせる。チョイスとしてはいいのだろうが、いかせん、これが前半だけだったらよかっただろう。後半まで一緒のグリム童話はマイナーであり、残虐だ。
カニバリズムを唱えるのはお菓子の家を思い出すがそもそも貞操概念がなぁ……。幾度となく読んだことのある文章から目をそらして立ち上がった。


「極限に失礼するぞー!!」


バッタン!!!
勢いよく戸が開き、突然の来訪者が声をあげる。それにすぐそばにあった椅子を盾にしてしまったのは防衛本能だ。「笹川氏ーーーっ」と後ろから慌てたようにランボが声をかけているが「うむ!驚かせてすまない!」と彼は両の手に箱を持っている。


『……ランボ…くん?』
「え、あ、はい!お加減いかがですか?」
『いい、だれ、このひと?』
「俺は笹川了平!ボンゴレの晴の守護者だ!お前はフリージアという雲雀の女だろう!」


きょとんっと、ランボが固まったが、了平はそしらぬ顔だ。
それこそ、なつみと了平が会うのが初めてだからというのもあるのだが、ながながと続けられる言葉に今度はなつみの方が首をかしげることになる。


『しゅごしゃ、くん?』
「む。」
「この人は了平 笹川、です。日本語の勉強始めたんですか?」
『はい。はじめる。おどろかせるため、雲雀。』
「驚きました。ボンゴレも驚かせられそうですね。」


名前がどれかという問題をぶつけてみれば了平が眉間にシワを寄せた。が、ランボが落ち着いて返せば、なつみがいたずらに笑みをこぼす。


「この娘、日本人じゃないのか。」


だが、ぽつっと了平が言った。
なつみの容姿は黒髪に日の光の下であれば黒に近い紫色の瞳だ。瞳の色さえよく見なければ純日本人だろう。

だからこそ、日本語で言ったのだろうがこほんと、ひとつ咳払い。


「"突然大きな声をあげてすまなかったな。驚いただろう"」


さらりと、彼の口から出たのは流暢なイタリア語だった。
いつもの彼とは思えないほど落ち着いたその声にランボが再び固まるが、『了平くん?は元気ですか』と言葉を選びながら言葉を告げる。


「あ、えっと、"くん"じゃなくて"さん"の方がいいかもしれません」
『ランボさん?』
「あ、俺は年下なのでくんでいいです。」
『笹川さん。』
「うむ。」


すごくさりげなくだが日本語の指摘が入る。すぐにそれに対応できるのは彼女の強みだ。
『やまもと、さん。ひばり、さん。ビアンキ、さん。』とぽつぽつこぼし始めるのを見てランボはわらったのだが、ふと、思い出したように『どうして、ここへ?』と二人に視線を向ける。


「山本がな、一人で暇だろうからもしよかったら一緒にいてやってくれと言われたのだ。」


「お前のような年頃の女は甘いものが好きだろう?」と差し出されたのはケーキだ。それを反射的に受け取ったのだが、好みがわからなかったからだろう大量にある。苦笑いを浮かべてしまったのは、きっとどうしたらいいのかわからないからだ。


『あの、ひとり、さみしい、たべる、いっしょに』


つたなくとも精一杯伝えれば、二人はわらった。




それはほんのひとときの午後の夢。





190109




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