イタリアの町並みは日本とは大分違うし、ミルフィオーレの回りは本当に人工的な固いイメージの建物しかない。あの花園はまた別だが、緑のない建物のように思う。
ビアンキが用意してくれたニット帽と、それから寒くないようにとコート。足元は動きやすいブーツ。
なぜ自分のサイズがあるのかと疑問に思ったがそこはやはり準備をしてくれるようなヒトもいるんだろう。

ただ、この空気はどうもいただけない。連れ出したのは隣にいる男のはずなのに、変にどぎまぎしているのはなぜなのか。
彼はこんな性格だったかと思ったが、


『"ごめんなさい。つまらないでしょう?"』
「"いや、俺もすまない。どうも年下の女の子がどんなものが好きなのかわからなくて"」


一応、謝罪をいれておいた。そうすれば彼の方からも謝罪が返ってくる。彼は謝ることもないだろう。実際興味を持てないのは、自分が少し普通の女の子とは違うからだ。


『"山本さんの好きなものはなんですか?"』
「"俺?"」
『"はい。"』


あの頃も行動するのは雲雀とぐらいでおんなじくらいの女子とはどんな会話をすればいいのかもわからない。だから、相手にふってみることにした。
そうすればうーんっと少し考えて「野球とマフィアごっこと寿司かな!」と満面の笑みを浮かべた。


『"マフィア、ごっこ?"』


けれど、ごっことしてしまっていいんだろうか。
実際ごっこ遊びではなく怪我もすれば、命も狙われる。それをごっこという彼は本当に考えが軽いのだろう。7年前からそこは変わらない。そのくせ、洞察力だけはひどく強いのだから恐ろしいものだと、思う。


『"すごくおもしろそうな遊びですね。"』
「"ははっだろ!いろんなやつらにあえてさ!プロの野球選手にはなれなかったけど、でも唯一の友情っての?そういうのを手に入れられてさ!"」


けれど本当に好きなものに関しては彼はまっすぐなのだ。
なつみはその枠のなかに入れなかったと、そういうことのなのだろう。それに、自分から距離をとった。


「"でも、ずっと後悔してることもあるんだぜ?たった一人の女の子の悩みに気がついてやれなかったって"」


どきりとした。
それは顔に出てしまっただろうか、心底寂しげに笑ってから、恐る恐ると言ったように手が伸ばされて、優しく頭が撫でられる。
壊れ物を扱うかのように優しく、やさしくだ。


「"その子はダチの妹でさ、学校はクラスも違ったし話すこともなかったけど、俺から声をかけても良かったんだよなって。"」
『"それが後悔?"』
「"そ、俺はそのダチに命救われたのに俺は助けてやれなかったから"」


首をかしげて聞いたなつみに山本は辛そうに笑った。
彼は野球ができなくなったとき屋上から身投げをしようて止められたのだ。あの綱吉に。
その事をいっているんだろう。
その日、彼女は学校にいかなかったけれど。


「"な、雲雀を驚かせてやんね?"」
『"あの人を?"』
「"そ、こっそり日本語勉強しようぜ?ぜってぇあいつ驚くから!"」


それから何を思ったのか山本が言った。
キョトンっとしてしまった彼女に「"正直俺がしゃべりやすいからなんだけどな"」と困ったように笑う。
確かに生粋の日本人のはずだ。イタリア語は読み方が日本語に近い分英語より覚えやすいが、


『"驚かせたいです。あの人を"』


そう言って笑うのは本心からだった。
とはいっても、日本語は完璧なのだが。これで普通にしゃべれるようになるんだと思うと気が楽になる。


そのあとは本屋に言って、簡単な日本語系の書籍を漁りながら読み書きのドリルだったりを買った。(正確には買ってもらった)
お金の心配をしたら子供は素直に聞いておけとまた頭を撫でられた。




#Side Yamamoto

『あ、りが、とう、 やまもと、くん?』
「おう!どういたしまして!」


連れ出したのは気まぐれ。と、罪悪感。
獄寺とランボ、それから雲雀が連れ帰ってきた一人の少女の話は聞いていたし、ツナが実際に彼女に会ってからバタバタとしはじめて、んで小僧から聞いて納得した。

雲雀がもともとこの後に長期任務が入ってたのは知っていたが、寂しいだろうなとか、心細いだろうなとか思ってしまった俺は彼女がいると言われた部屋に行ってみた。

俺と彼女の共通点は限りなく"ない"。
ツナの家でも会わなかったし、学校じゃクラスが違った。ただ、中3のとき、何回か追試に当たったとき、彼女が勉強を教えてくれたのだ。

ツナの双子の妹。
運動も勉強も人並みかそれよりも少しできるぐらい。中の上か上の下ぐらいな感じだが、容姿もあいまってツナと兄弟だとは最初思わなかった。


『そう、ここはこっちの公式使うの。』
「お!ほんとだ!できたのな!」
『こことここがポイントなんだけど、多分山本くんだったら勘で当たるようになるよ。』
「ははっさんきゅー!なつみ!」
『どういたしまして』


今だって思い出せる。
彼女の細い指が問題文をなぞり、昼休みの教室のざわめきのなかで聞こえるしっかりとした声。髪で影ができると瞳に現れる紫色。それを見つけたとき自分だけの秘密かと思っていたのだ。ちょっと特別な女の子のちょっとした秘密。


「本当、俺、お前と友達になれてよかったのな!なんかあったらいえよ?」
『ありがとう、山本くん』


お礼をいうのも普通だし、なにも変なことじゃないと思った。けれど困ったようにお礼をいうなつみに違和感も持っていたのだ。

だから、少しでもそばにいてやろうとそうも思ったのだパシンっと、鋭い音が響いたときなんだ喧嘩かって思った。
でも穏やかじゃなし、止めてやろうって。


「なにお前、山本に媚うってんの?」


聞こえてきたのは、ツナの声だった。
それがすぐ近くの空き教室でのことだとわかって息を潜める。ツナがそんなこといってるのにも驚いたし、もしかして敵かと、


『売ってるつもり、ないし、同級生と話すぐらい普通じゃん』


そう思ったのに、聞こえてきたのはなつみの声で、動けなくなる。
この二人が知り合いだったっていうことにも驚いたし、どうしてこんなことになってるのかっていうのも、俺の名前が出てるってことは関係してるのはわかった。


「は?山本は俺の仲間だって言っただろ。近づくなよ」
『お兄ちゃんに私の友好関係文句言われる筋合いない。』
「お前の友好関係のまえにヒト選べって言ってんの。わかんない?」


ぴりぴりとした空気のなかで息をすることさえも忘れそうだった。いや、実際忘れてたのかもしない。


『……なに、私には好きな友達を持つことさえ許さないって訳。』


すべてを諦めたその声に、俺は諦められたんだって、そう思った。
それからしばらくなつみは学校を休んだ。それはすでに近くなっていた夏休みに差し掛かる本の少し前のことで、夏休みに入ってしまえば会うこともなくて、夏休みが上がったあと、あいつのそばには雲雀がいて、それはそれで複雑だったけど。



190108




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