結局、雲雀はその日帰還することはなく3日が過ぎた。

その間、綱吉はおろかあの頃彼の回りでうろうろしていた中心人物たちは自分にはよってこないのだが、その代わり獄寺の姉であるビアンキがなつみの面倒を見てくれる。
ただ、部屋の外には出ず、室内でできることのみ。
食事に関してはビアンキの持ってくるもので簡単につくって見せれば備え付けの冷蔵庫には簡単な食材が詰め込まれるようになったのはいい誤算だった。正直、ビアンキの作ったものを食べたら死ぬ。それは、あの頃に学んでいたからこそ。


「"あなた、料理が上手ね。"」
『"ありがとうございます。最愛のヒトの胃袋つかみたいですから"』
「"ふふ、愛ね。"」


とんとんと包丁で食材たちを切りながらイタリア語での会話。今日はハンバーグを作ろうかな、とか思っている。彼が好きな食べ物だ。
もっと警戒されるかとも思ったのだがビアンキはビアンキでなにかを作っていてそれはいびつな色の煙をあげているからそっとしておく。
そもそも、彼女は、というよりもボンゴレは自分のことをどんな認識をしているのかが少々気になった。

どう思われていようが、いつかは裏切る予定なのだが。


「"ねぇ、フリージア。ここに囲ってしまっているのだけれど、あなた家族はいるの?"」


けれど、突然だった。突然の質問に、間違いなく自分の手は固まってしまった。
家族、かぞく、カゾク。
家族とはなんだったか、と固まってしまう。


『"いました。兄が。"』


ポツリと、過去形にしてしまったのはどちらの家族を示してか。かちゃんっと静かに包丁をまな板の上に置いた。静かに静かにじっと切りかけの野菜を見つめる。家族とはなんだったか。そう考えても思い出せない。ぴんとくるのは「兄になりましょう」と優しくしてくれた桔梗だけだ。


『"もう、ずっと前に兄様とは別れたっきりで、今は一人です。"』


でも、一人で過ごしているというのは「私」の設定だ。これで誰かと過ごしているというのをいってしまえば変に捜索してしまうだろうから。だから嘘をつく。

別に、それぐらいの嘘、いいだろうって。


「お!ビアンキここにいたんだな!」


聞いてはいけないことを聞いたと、黙ってしまったビアンキに変わって世界を崩したのは明るい声だ。日本語。けれど、ここでははじめて聞く、懐かしいに近い声だと思う。
開いた扉から入ってきたのは一人の男。
カジュアルな格好に、明るい笑顔が特徴的なのだが顔に若干の傷の痕があるのはご愛敬か。
固まってしまった私に目の前の彼は「はは、ほんっとうにちっせぇや」とまた日本語で言った。
「私」は日本語を知らないと聞いているんだろう、だから彼には珍しくひどく寂しそうな懐かしそうな顔をしているのだ。
私が知る彼の顔はどちらかと言えば喜びと怒りぐらいだったからとても新鮮だと思う。


『"あなたは?"』
「"あーわるい。俺は山本武。お前を助けた雲雀の仲間だ。はじめまして"」


けれど、初対面のヒトの部屋に平然と入ってくるならば挨拶ぐらいはしてほしいなと、そう思って疑問を投げ掛ければ彼はにっと笑って答えてくれた。
「私になにかようだったかしら?」とビアンキが彼に疑問を投げ掛ける。
確かに、とそうは思うが「いや、会いたかっただけなんだ。」とまた彼が寂しそうに笑って今度は私を見た。


「"な、もしよかったら、一緒に出掛けないか?"」
『"私と?"』
「"あぁ、もう何日か部屋に籠りっきりだろ?だから気晴らしにどうかなってな。"」


静かに、驚いてしまった。いや、表に出さなかっただけで内心はかなり驚いている。学生時代では絶対にあり得なかった。
そもそも近づいてすら来なかった気がするのだが、よく話すようになったのも片手で足りるぐらいだっはずだ。
それなのに、突然一緒に出よう、なぞ驚くのも無理ないだろう。


「"いいじゃない。少しは外にでたほうがいいわ。雲雀もしばらく戻ってこれないらしいから"」
『"そうなんですか?"』
「"ちょっと急ぎの用事に当たってしまったみたいだから。"」


ぽんっと彼女の肩に手をのせてビアンキは言った。きょとりと彼女を見上げればとんでもないことが告げられた。彼も忙しいというのはわかったし、食べてほしいなと思って作っていたから食べてくれるヒトがいないならまた今度でもいい。

今思えば、イタリアの町並みのなかを歩いたことはないのだ。


『"少し待っててもらっていいですか?"』
「"おう!部屋の外にいるな"」


少しだけ、本当に少しだけ。と。


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