目を覚ましたとき、見慣れない場所だった。
いつも真っ白な世界で意識を覚醒させるからこそ、濃い紫色のカーテンだとか、色のついたものがある環境に驚いてしまった。

ここは、いったいどこだ。

ゆっくりと体を起こせば、自分の結っていた髪がさらりと肩に流れ落ちる。ボロボロになってしまったドレスの代わりともいうように、ベットの上には真っ白なカシュクールワンピースに淡い紫色の長袖のカーディガンがあった。

足をベットの外に下ろせば引き裂かれたドレスの隙間から見えた足には銃の傷跡はない。もう治ってしまったのだろうか、それとも、と頭のなかに浮かぶのは桔梗にすこしだけ教えてもらった「死ぬ気の炎」の特性だった。
きっと、医療にも使われることがあるんだろう。

とりあえずと、立ち上がって部屋を見渡す。
一流のホテルの一室のように綺麗だが、ヒトのすんでる気配がないというのが一番か。
ラップの巻かれたサンドイッチと共におかれているペットボトルの飲み物は自分の好きだったもの。それに惹かれてそれらがおいてあるテーブルに近寄れば、そこには一枚の手紙。


"少し出掛けてくる。この部屋のなかだったら好きにしていていい。シャワーでも浴びてゆっくりしてて、一人にしてごめん"


イタリア語で並べられた言葉たち。苦笑いがこぼれてしまったのは仕方ない。彼が日本語以外を書くのが正直意外すぎた。英語も普通にペラペラだったから問題はないのだろうけれど。書くとなればまた別物のように思う。


『(……シャワーは浴びたいな)』


乱闘のあとのままの体、何より、服が汚れていて着替えたいというのはある。
ただ、白い服は苦手なのだが、それしかないのだから仕方がない。
ベットに置き去りにされていたそれらをもって部屋のなかをぐるぐると回る。
おそらく出入り口だと思われる扉以外を探して一つずつ開けて確かめた。

簡易のキッチンと書斎があるのはどういうことだとつっこみたくなったのだが、特注かと思うことにした。



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シャワーをあびて、用意されていた服に着替えて息をついた。
まさか下着まで準備してあるとは思わず固まったのだが、彼だったならば自分のサイズぐらい知っていて不思議はない。
そもそも、健康診断の結果が残っていたはずだろう。
苦笑いをこぼすが少し胸元がきついのはそこは想定外だった。彼の前で脱いだことがないから仕方ないのかもしれないが。

きゅっと手を握って集中させる。そのまま念じてするりとそこから生み出すのは超圧縮された炎の華。今までもそうやっていくつかのつぼみを芽吹かせて来たが、今回は蘭にしてみた。
それをかんざしのようにまとめた髪にさしこんで窓辺による。


自分が過ごしていた場所よりもずっと地面が近く、SFのような近代さはない。
どちらかと言えば旧ヨーロッパに近い町並みのなかにポツンと屋敷がある感じだろうか。
まさかこんなところで彼が過ごしているだなんて思わなかった。
それにしても。


『(あっさりと、入り込めてしまった)』


もっと警戒されるかと思ったのに、それだけ雲雀の場所は高いのだろう。資料で読んだ守護者はミルフィオーレの真六弔華のようなもの…それとも自分の兄である彼が容認したのだろうか。どちらにしろ随分と甘いものだと思う。
あとは、ここで内部を混乱させればいい。ただ、もう少し、いやいっそ彼が帰ってくる間だけでもいいからこの場所にいたいと思うのは間違いなのだろうか。
そうでないといってほしい。その証がほしいと思うのは間違いなく今の状況が不安だからだろう。

そのまま、窓荷よりかかって目を閉じる。
そういえばよく応接室でも、こうして部屋の隅っこの壁に寄りかかって眠っていたっけと、思い出した。


190107




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