獄寺から報告を受けて綱吉は手に持っていた書類を盛大にぶちまけた。
横にいたリボーンに心底あきれられた視線を向けられたのだが、ボロボロと大粒の涙を流すランボを見てなにかあったことの、予想はついてしまう。


「それで、今その子は?」
「雲雀が医務室につれていきました。手当てもあいつが。」
「…そっか、ありがと」


会いたいと、そう思った。
ずっとずっと探していたから当たり前だ。待っていたのだ、再びあの黒に会えることを。
さっさと書類を片付けて綱吉は歩きだす。その後ろを「お供します」と獄寺が付き添い、そのあとにリボーンも続いた。


「……ボンゴレ」


その背を不安げに見つめてランボは言葉を漏らす。
少しだけだが、彼女の手をとって逃げたからこそ、その違和感がわかるのかもしれない。
それ以上に、「あの頃」の彼女は本当に己の姉のような人だった。それは10年前に飛ばされて確かめたからこそわかる。


「彼女は、あの頃のなつみさんじゃ、ない、」


雲雀から、彼女は「フリージア」という名前だと聞いた。名は違うが姿、形、声と似てるところはたくさんあった。むしろ模造品と思うほどだった。
けれど、彼女の器はそうであっても、中身が違うと思ったのだ。
自分のことを知らないのも仕方ないと思う、もちろん、彼女がおかれた状況のこともだ。
でも………


手を引いてくれた彼女はもっと暖かかったのに、守るために引いた手は氷のように冷たかった。
柔らかく困ったように笑う笑顔がかわいらしいと思っていたのに、まるですべてを諦めたような曇った目が自分を見ていた。

数えきれないほどの違和感に、また背筋が泡立って涙がこぼれ落ちる。
自分でこれなのだから、会いたくて、会いたくて、ずっと探していた恩人である綱吉ならばもっとショックを受けてしまうんじゃないだろうか。
10年前に飛んで、実際に会ってしまうとあのとき小さくて彼女を守れなかった軟弱さがひどく浮き彫りになる。


「ごめんなさい、ごめんなさい……っ」


力が抜けて崩れ落ちても、涙はずっと流れ落ちていった。



*-*-*-*-**-*-*-*-**-*

雲雀の手が、腕のなかで眠りに落ちた少女の頭を優しく撫で、ひどく穏やかな時間が流れていた。
引き裂いたドレスは治療しやすいようにすでに膝たけまで揃えて切ってしまったがそれ以外には転んだときにできた擦り傷ぐらいだったからこそ安堵したものだ。
早くこれを隠してしまおう。誰にも見えないところに。でもその前のいろいろ準備をしなくては、と…。
その空気を壊すノック音。


「失礼します、雲雀さん。」


静かに開いた扉と、現れる綱吉に雲雀の視線は鋭くなる。

先程の空気とは裏腹のピリッとした空気に獄寺は表情を歪めるが、当の綱吉は雲雀の腕のなかで眠っているたった一人の少女に固まってしまった。

獄寺とランボからの報告は聞いていたから、その姿形は覚悟していた。
ただ、ただ…あまりにも…


「なつみ……」


今でも嫌に思い出せる。美しい夕焼けに、飛び込んでいった姿を。
地面に叩きつけられたときの、ひどくあどけない寝顔を、その顔とあまりにも、似ていていっそ吐き気がしそうだった。


「フリージアだよ。沢田」
「は…?フリージア?」
「そう、この子の名前はフリージア。沢田なつみじゃない。」


けれど彼女はここにはいないと。言い切る言葉だった。
雲雀はただ、自分が今抱えるこの少女は美しい花の名を持つ少女だと確定つける。


「それは、彼女が言った言葉ですよね」
「そうだよ」
「なにを根拠にっ」
「なら、君はこの子に沢田なつみという少女の悲惨な過去を押し付けるのかい?」


「僕はごめんだね。」と続ける。悲惨だと、突きつけられて今度こそ言葉がでなくなった。
そのまま起こさないように横抱きにして扉に向かっていく。彼女が眠ってしまってから勝手にほどいた髪が静かに風に揺れた。


「この子が彼女であろうと、そうでなかろうと、この子が笑顔になれるのなら僕はそれを守るだけだよ。」


----それは、雪を包み隠す雲の意思



190107




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