髪を引っ張られて無理矢理顔をあげられる。
痛みに生理的な涙で目が霞む。何故、こんな目にあうのか、すべての元凶は兄である、あの男のせいだ。


「さっきボンゴレの雲雀恭弥と踊っていたレディだろう?ついてきてもらおうか」


言われたのは、その言葉。
あぁそっか、兄ではないのか。でも、仕方ないか。彼も、もともと人に恨まれやすい体質だった。

銃を向けられたまま、立つように促される。
ぎりっと奥歯を噛み締めてしまうのだが、そんなのはこの男達には関係ない。
殺されは、しないだろう。たぶん。けれど、すこしの屈辱ぐらいはあるだろうか。私は耐えられるだろうか、所詮、かじった程度の私が、なにも知らない、私が。


『(恭さん…兄様)』


ぼんやりと思うのは総じて雲を宿す人だった。こちら側に来てしまったから仕方がない、無理やり立たされて痛みにひゅぅっと喉がなる。

すこし遠くで子供の泣く声が聞こえてきて、あぁ、そういえばランボがとも考える。頭に固い何かが突きつけられた…が瞬間拘束が外れた。
なにが、どうしたのか、と数秒固まってしまったが「なつみっ!!!」と悲鳴のように「名」が叫ばれた。
あぁ、ひどい人。普通だったら他の女の名前何て呼ばないよ、それだけ彼のなかに「私」が残ってることは嬉しいけれど、それでも複雑な気分だ。

力が抜けて座り込んだ体が彼の腕に抱かれる。肩から上着がかけられて肌を隠された。もう慣れた、大好きな香りに目を閉じればうるさいほどの心臓の音に耳がやられそうだと思いながら、そのまま痛みに意識を飛ばした。





「なんっつータイミングで入れ替わってんだランボ!!!」
「ぐぴゃ!? なにすんだアホ寺!!」


背後ではそんな茶番が広がるが正直、雲雀としては心底どうでもよかった。
頭に銃を突きつけようとした主犯にトンファーを投げつけてしまったのだが、ちゃんと彼女はここにいる。気を失ってしまったようだがちゃんと生きている。それだけで十分だ。
と思ったが地面にいまだに広がる赤に気がつく、なにが、と思ったが、わずかに、黒のなかに広がる色。


「ごめんね」


気を失っているが一言かけてから彼女の長いドレスを引き裂いた。
足をさらせば真っ白な細い太ももに、赤と流れ落ちる命の液体、それですべて考えはついた。
真っ白な肌に、ひときわ目立つ黒い穴。
腸が、煮えくり返りそうだった。

彼女を守れなかったのだ、今も、昔も。細く華奢な体を慎重に抱き上げる。
この乱闘騒ぎは間違いなくマフィアの抗争だ。顔の割れた、この少女を野放しにはできない。…というのは、口実にしてもいいだろう。

沢田綱吉が認めまいが、あの黒いヒットマンが否定しようが、この腕のなかの小さな少女は、自分のものだ。


もうあの子はいないし、この子に責をおわせるつもりはない。
けれど、幻影にすがるぐらい、僕の好きにさせてほしい。



190106




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