雲雀の様子がおかしい。

そう一番に感じ取ったのはボンゴレ10代目が右腕、獄寺隼人だった。日頃から守護者たちを管理し、監視し、観察しているなかで、一人やたらと消えては朝方に帰ってくるやつがいる。

それがまさかの雲雀だった。
大体一ヶ月前か、と記憶を遡りそういえばめちゃくちゃ不機嫌で交流パーティへ行った日だったかと思い出した。
定期開催されるようになったそれはある種の交流場所、それこそあいつが嫌う群れる場所だ。
まさかそんなところに雲雀が自らいくようになったとは… 


「で、何で俺なんですか。獄寺氏」
「お前が一番暇そうだったからだ。」
「暇じゃないんですけど……」


今日もまた出掛けていくその雲雀の背中を見ながら非番だったはずのランボを呼び出し、追いかけることにした。

すこし上機嫌に愛車に乗り込んでいったやつを追いかければ案の定、例のパーティ会場だ。
俺とランボじゃ顔が割れてしまっているから最低限変装をして会場の中に入った。
本当に交流といった感じで一般人も混ざってんじゃねぇかと思うほど穏やかな空気にあっけにとられる。とは言っても、警備ガンガン。一歩外に出ればがっつり空気も変わるんだが。
ここの警備は開催しているファミリーのそれぞれの幹部が互いを監視しながらここの場所を見ているのだから当たり前だ。(実際俺も一回やったがもう2度とやりたくねぇ)

しばらく偵察がてら食事に手をつけてみたりワインをのんでみたりしてたが、これといって雲雀が来そうな原因はない。
ならば、もしかして女かと、思って血の気が引いてきた時に、曲調が変わった。
なんだ?と思った瞬間に「獄寺氏、あそこ」とランボの震えた声。指差す場所を見ればダンススペースで、ヒトがバラバラとはけていく。バッチリいい選曲だろ?と思っていたら、そこには二つの、黒


「雲雀………と、」


固まる。心臓が鷲掴みにされる感覚だった。
雲雀の前で美しく礼をするのは忘れられない姿。
明るい会場に、広々としたその場所にまるで二つの影のようにたつその姿はひどく現実から離れている。

色、と言えば、彼女が指す飾りの花とドレスの紫色ぐらいだろうか。
すこしだけ距離のあるポジションからまるで早くしろと言わんばかりに手を差し出した雲雀に、苦笑いで重なる指先の白さ。
別世界だと、思うのはきっと俺だけじゃない。だから、ヒトがその場所からはけているんだ。その世界を汚さないために。


「あの女性…どっかで見たことあるんですが……え、獄寺氏?」


アホ牛の言葉に、目の前がぼやけた。
あぁ、そうだろうな。アホ牛にとっては随分おぼろげな記憶だろう。こいつのなかじゃまだたった8才。ガキの頃の記憶だ。どんなにおんなじ家にいたとしても、彼女がそもそも名前を呼ばれていたのかどうかすら危うい。

現に俺は呼んだことがない、気がする。
だが、遠巻きにでも彼女の存在が浮かび上がるのだろう。

黒、沢田なつみさん。
10代目の妹君でありながら、裏と表の中間の世界でひどく苦しみ、染まりきれなかったせいで誰よりもその立場に苦しんでいたヒト。

ある日パタリと突然姿を消したのだ。そこまで考えて、目の前の異常に気がついた。


彼女が消えたのは17のころ、今からもう7年も前の話だ。そこから行方不明扱いになり情報すらも隠されてボンゴレデータならば故人となっている。
ならば、目の前にいるのは酷似した別人か。


「(それともボンゴレを狙う新手のスパイか)」


なつみさんと雲雀はひどく仲がよかった。いや、二人の関係はそれこそ特別といえる。
ただ、残念ながら今は"作る"ことができるのだ。雲雀に、しいてはボンゴレに近づくためならばそれぐらい、するだろう。
もう少し近くでと、足を動かした瞬間だった。

爆発音。悲鳴。とたんの銃声。


「獄寺氏!!」


後ろでアホ牛が叫んだ。
叫ばれなくても準備はできていた。指にはめていたリングに炎がともり、装備が展開する。
バリアのように形成されたもののひとつを今まさに目の前で踊っていた雲雀のもとに降り注ぐガラスの雨とシャンデリアから守るために飛ばした。

そして合流するために走り出せば、雲雀はその下で震える少女を抱き締めていた。


「"いい子に、言うこと聞けるね?"」
『"はい"』


聞こえてきたのはイタリア語。なぜ、彼女?と思ったが、優しげな瞳から一転、不機嫌な顔つきになった雲雀は彼女をランボに預ける。
守るかと思いきや、どうやら心底邪魔されたことに腹がたっているらしい。
トンファーをだして、その武器に紫の雲の炎が宿る。


「その子に怪我をさせたら殺す。」


それはランボに向けての言葉だ。 いつもならば震え上がるランボだが、まっすぐ真剣な目で雲雀にうなずいた。
ガキでも守護者なのだと実感する。
ただ、己らがここにいることはスルーかと突っ込みはいれたくなった。


190109




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