作戦に参加するのであればその姿を利用するのが近づく一番良い手段だと分かっていた。
そうして交流パーティだと真六弔花の一人、嵐の守護者であるザクロにつれてこられてたのは広い会場。

白蘭との出会いから始まり、彼女の周りには付かず離れずの距離をとる人間が多く、彼もまた一人だった。
極端に嫌ってくる女の子もいるのだが、単なる嫉妬と不安なんじゃないかとなつみは感じている。
自分が好きな、大好きな、信頼している、そんな人の興味をなつみというぽっと出の女がかっさらっていったら確かに不機嫌にもなるだろう。いっさいがっさいなつみにとってどうでもいいことではあるし、自分のそばには桔梗という信頼のできる人がいるから多くは望まない。


そのままザクロと別れて会場に紛れ込むのは容易いことだった。広い庭園から開けっぱなしの会場のなかに入り込みため息をこぼす。
マフィアだし、裏社会だしもっと怖かったり厳しかったりするものかと思ってはいたのだが、存外そうでもない。
いや、実際の情報では穏健派の人たちの本当に交流。食事会、ダンス会。社交パーティみたいなものだと思ったのが感想。緊張をほぐすために息を吐く。

そもそも、パーティのように人の多いところに出てくるのは目を覚ましてから…いや、正直あの頃でさえなかったことだ。
こんなきらびやかな、お姫様のような世界。今の自分の格好もそうだが夢のまた夢。あり得ないようなことだった。


「"どうぞ、"」
『"…あ、りがとうございます"』


不自然がないように会場を歩いていればワインを配るボーイにグラスを渡された。
一瞬固まってしまったが素直に礼を言えば、「いいえ、楽しんでくださいね」と綺麗な(いっそきれいすぎる)笑顔を向けられて少々気持ちが悪かった。
だが、飲み物さえ手に入ってしまえばすこし離れても違和感がないだろうと、また会場の隅、自分が入ってきた庭園の見える出入り口の近くに戻ってきた。

すこしの緊張と、大きな不安。
ここに来て、怖がっているなんてひどくバカらしいと小さく笑ってしまう。
ただ人馴れするためのショック療法のような物だと、手元で液体を遊ばせて、目を閉じるた。
作戦に参加すると決めた。真っ向から戦うことも、けれど、出会うことが怖いと思う。
そもそも、こんな成長していない、彼らの記憶から大分ずれている自分が気がつかれるかさえわからないのだが。


「ねぇ、君」


周りがざわめいた。かけられたのは間違いなく日本語。こんなイタリアのど真ん中でまさかの、日本語。顔をあげたところで見えた黒に固まってしまうのは、その黒が限りなく、自分の知っているーーーー他人だからだ。

  --オイ、あそこの男はボンゴレの守護者じゃないのか--
--嘘だろ…あの女の子、何をしたんだ。

イタリア語で聞こえる、動揺。けれどそれは目の前の人にとって果てしなくどうでもいいらしい。
けれど………あぁ、まさか本当にこの人もボンゴレについたのだと知ると、どうしようもない気持ちになる。


『japanese?』
「…日本語は、話せる?」


英語で、たったひとつの単語を話すのが精一杯だ。相変わらず日本語で話しかけてくる雲雀になつみは困ったような笑顔しか返せなくなってしまった。けれど、それが彼にとっての決断のようなものだったらしい。

すこし寂しそうに表情を崩したが、「Potredde ballare com me?」と膝をついて彼はなつみに手をさしのべた。
数度まばたきをして、小さく笑ってしまったのは、昔に似たようなことがあったからだ。
その時は、もっと…近い距離にいたと思った。
窓際に遊ばせていたグラスをのせて、フリーになった手。
白く細い指がするりと彼の手に重ねられる


『Si. Con piacere』


踊っていただけますか。というその問いに、喜んでと、そう言葉を返した。さらに会場がざわついた。

けれど、なつみにとってその瞬間にその反応は心底どうでもいいものになってしまった。すこし、ほんのすこしだけでも大好きだった人の手がとれたから。

黒く美しいドレスをなびかせながらホールのダンススペースまで彼にエスコートされながらなつみは歩く。

孤高の浮き雲と言われる男が、この場所にいるだけでもレアだというのに、まさかダンススペースまで来るとは誰が思うか。明日は槍が降るんじゃないかと心配する声さえ聞こえだしたのだから、心底彼は怯えられている。

すこしの静寂のあと曲調がかわった。

それに先に動いたのは少女の方。
一歩足を引いて、ドレスの裾を持ち、恭しく礼をする。けれど次に顔をあげて手を差し出せば、小さく笑みをこぼした雲雀がその手を掬うようにとった。

自然と、足が動き出す。

リハビリとボンゴレに近づくために覚えたダンスだったのだが、まさか、こんなに楽しいものだとは思わなかったから。
練習していてよかったと、ふわりふわり揺れるドレスが視線を掠めて考える

彼は、気がついているだろうか。いや、気がつかないはずだ。最初、白蘭が用意したのは真っ白なドレスだった。白から美しい水色に変わるようになったドレス。それこそ「雪」をイメージしたものと言えば早いだろう。
けれどデザインをそのままに黒に、「紫」を隠したこのドレスは何より、自分の瞳に寄せた。
今の、瞳は、彼が愛してくれた完全なアメジストだから。


『っあ』


ただ、考え事はよくなかったらしい。そもそも考えごとができるほどの実力も集中力もなつみにはまだ備わっていなかった。
カツンっと高い音がして、ヒールの高い靴が床を滑った。転んでしまうと体が後ろに傾いた瞬間に、彼女の体を襲ったのは浮遊感。
けれど痛みが来ることがなく、次に風がなびいてまるで小さく悲鳴をあげてしまったのだが、彼の首に腕を回してしまったのは、反射だと信じたい。


「Sei sorpreso?」
『si epesante. non e vero?』
「Ti. deludero」


-驚いた? -えぇ、重いでしょう?-全然、降ろすよ

流れるように足が床につく、
そのまままたステップを踏んで風にのった。
こういうところは変わっていないと思う。
あぁけれど、時というのはひどく残酷で、寂しい。重ねられた手の、大きさに、悲しくなった。


190106




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