白の世界で白い服を着た黒髪の彼女が一枚ぺらりとページをめくる。のつどイタリア語でかかれているそれを読めるようになるまで時間はいらなかった。
それこそが彼女の才能であり、彼女の兄が嫌った何でもできてしまう非だった。


かつかつとヒールの音。
本から目を離して顔を上げればそこにいたのは真6弔花、雲の守護者である桔梗。
なつみと視線があえばにこりと表情を和らげ、彼女が座る車椅子の前に膝をつき視線を低くする。


「お加減はいかがですか?」
『だいぶ、よく、なりました。』
「そうですね。目覚めたときに比べ、大分声も出るようになってますし、いい兆候です。」


それから告げられる言葉に、たどたどしいが返答を返せば、笑顔を向けられる。
お兄さん気質、というよりもおそらく「雲」はこんなヒトが多いのだろうと、うっすら感じるのは白蘭から教えてもらった自分の存在が雪だからだ。
だから、似て非なる雨と嵐には負ける。そして晴とは相容れない。それは彼ではなく彼の身内だったけれど、納得してしてしまったのはつい最近だ。


「白蘭様から許可をいただいたのですが、今日は天気もいいですし、外出しませんか」
『…そと?』
「あなたの祖国であるジャポーネとは大分ちがう景色が見れますよ」


ずっと白の世界にいるからだろうか。彼がそういった言葉に自然と大きなガラス張りの窓へと向ければ大きな青空が迎えてくれる。
こくりとひとつ頷けば桔梗は穏やかな笑みを向けて彼女が座っている車椅子のハンドルをにぎった。




ーーーーー


『すごい。きれい。』


外の世界の感想は単純にそれだった。率直で素直な言葉に桔梗は微笑む。
ミルフィオーレ本部は近代的な超高層ビルではあるのだが、そこの一角だけは違った。それこそ、庭園というべきか。

立ち並ぶ花を綻ばせる木々と整えられたレンガ造りの道。舗装されている故、彼女の乗る車椅子も問題なく進んでいる。


「あなたに喜んでもらえてよかったです。」


ひさしぶりに外に出れたからだろう。それとも太陽の光にあたる彼女を初めて見るから錯覚だろうか…。表情の明るくなったなつみの様子に頬を緩ませる桔梗はまるで「兄」というに近いだろう。
髪色も異なれば、年すらも離れすぎているがそれでも目が覚めて以来、有史以来の伝承に基づきあてがわれた小さな少女を「妹」と思うのに時間はいらなかった。


『桔梗さんが、お兄ちゃんならよかったのに。』


ぽつりと漏らした言葉に、いった本人が表情を崩した。けれどすぐにふわりと笑顔を作って『冗談です。ごめんなさい』と告げる。


「貴女が望むのならば、偽りでも兄弟になりますか?」
『え?』


きょとりと顔を上げたなつみに相変わらずの笑顔で桔梗が彼女を見つめている。ぱちぱちと瞳を瞬かせて首をかしげる彼女の向かい側に回ってするりとなつみの髪を優しく一房掬って口元に持っていき、口づけをおとした。


「本物でも裏切るのであれば偽物だって成立します。ね?」
『だって、私。』
「私は、貴女が安心できるのであればいくらでも貴女の望む居場所になりますよ?」



それは、彼女が最も望んだ…。





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