003


「わりぃな、龍ヶ崎」
『・・・大丈夫』

やっと帰れると、ホッとしていたのに、この状況はいったい何なのだろうか…。
現在進行形で教室の外を歩いている私たち。
日直だった桃城君と、先生についでと言われ用事を頼まれた私とでHR用の荷物を運んでいた。
人使いが荒い教師だ、なんて心の中で悪態をつくけれどあまり意味はないだろう。

「にしてもよぉ、あいつ、女子にこんなものもたせていけねーな、いけねーよ」
『仕方ないよ、先生だって忙しい。』
「ははっ、まぁな」

なんて、考えてはいたけれど桃城君がそう言って若干表情を変える。
思うことは同じ、けれど、彼はひどく優しいなぁなんて思ってしまう。

やっぱり、私と彼は根本が違うんだろうなぁ、なんて…

「そういえば俺ら、こんなに話すの初めてだな」

やさしいよね。でも私君の3分の1も持ってないんだよ?と、考えていた矢先だ。
彼がそう言ったのは。笑顔でそんな事いうから私は一瞬固まってしまった。
彼には、悪気はないんだろう。それでも‥

『・・・そうね・・・私も人とはあまり接しないから・・・』

信頼できる大人はいなかったから、兄さんだけだったから。
足を止めて階段の踊り場から窓の外を見た

何もない、当たり前の風景。
そろそろ部活が始まるのだろうか、ワイワイと楽しげな声も聞こえる。

私には程遠いものだ。
なんて、考えて視線を外し、階段の最初の一段を降りようとしたとき


おねーちゃん


『!!』

ひんやりとした感触が足を掴んだ。
ぞくっと体中がこわばって動かなくなる。

耳元でつぶやかれたのは、ここにはいないであろう小さな女の子の声。
ぐらりとぐらついた視界、傾いていく景色

「龍ヶ崎!!」

手に持っていたものが滑りおちて散らばっていった。
体が階段に打ちつけられて転がっていく。かけていた眼鏡すらも飛び、早速行方はわからなくなってしまった。

ごろごろ、ごろごろ…


『・・・つぅ・・・』

頭が痛い…体が痛い…いろいろ痛い・・・遠くで誰かが私を呼んでるけれど、それを返すこともできない。おそらく踊場まで落ちたのかな、なんて、単純に考えてしまう。けれど暖かい感覚が私を包んで、軽く持ち上げた。


ミシ


『…ぁ』

体の奥で、何かが軋んだ。痛みに小さく声を上げる。

霞む視界。声を上げている「彼」階段の上。3段目



おねぇちゃん、あーそーぼー?


赤い服の小さな髪の長い女の子
裸足の足がゆっくりと


『・・・もし・・・ろく・・・』
           桃城君



『に・・・げ・・・』
           逃げて


ひたり、ひたり
かすれた声、遠くなる意識、どうか逃げてほしい。
意識を保てと命じるけれど無理で….

ブツリ

暗転。



*-*Momoshiro Side*-*

龍ヶ崎が落ちた。
俺よりも身長が小さくて、落ち着いてて、暗くて、でも本当は寂しがりやな奴。
階段に差し掛かって、いきなり息を呑む音。
それに不思議に思って振り返れば散らばる白
運んでいた資料だと気がついたのは、龍ヶ崎が俺の視界で倒れた後、今の一瞬で何があったか…

理解にひどく苦しんだ。


龍ヶ崎は確かに俺の後ろに居た。
今は・・・階段の下で倒れて

資料なんてどうでもよくなった。慌てて駆け寄って、抱き上げる
いつも二つに結んでいる髪、
けれど片方のゴムが切れたためかさらさらと絹のような黒髪が滑りおちていく。

『・・・ぁ』

痛みにマユをよせ、けれど、ゆっくりと視界を開き、見たのは俺の後ろ。
片方の目は前髪で見えないが、黒曜の瞳が俺の後ろを捉えていて

『・・・もし・・・ろく・・・に・・・げ・・・』

途切れ途切れの言葉、目の前にある鏡。

「っ」

そこには、










血まみれの女の子が居た




.
.



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -