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*Side Yukimura

あいつらが、立海を引っ張っていてくれるのは嬉しかった。常勝を貫くためには必要不可欠なことだとも知っている。

でも、少しずつ空いていくこの距離が酷く不安で恐ろしかった時に、君が俺のまえに現れた。

最初は不思議な子だと思った。
だって初対面で『此処の入院患者で、断じて幽霊ではありませんし妖の類でもなければただのちょっと変な人間ですが』なんて紹介されたら誰だってそうなると思う。
だけど、彼女の言葉に暖かさを感じてしまって甘えたいと思ってしまったんだ。

いや、実際に甘えてしまったんだとは思う。それでも、彼女は受け止めてくれた。

青学に通っているという彼女の言葉に、一番に手塚がいる学校なんだと思った俺もそうとうテニス脳なんだろう。
でも、それだけじゃなくて彼女が丸井やジャッカル、氷帝の連中と知り合いだなんて思いもしなくて、驚いた。

まぁ、俺の世界は最近ここだけだから仕方がなかったのかもしれないけど。
あぁ、でも一度甘えてしまったからか、欲しかった言葉をもらったからか、モニカちゃんが元気に退院するのは喜ばしいことなのに複雑な気持ちになった。
「よかったね」と言った時に、きっと彼女はそれを感じたんだろうと思う。


『手作りなので、あまりクオリティは高いとは言えないんですが、この間勉強を教えてもらったお礼に。ドリームキャッチャーっていうんです。聞いたことあるかもしれませんが』


そういって差し出されたのは蒼を基調とした'ドリームキャッチャー'といわれる飾りだった。みることはあったけど名前まで知らなかったそれを俺に渡した。

ゆらりと揺れる白い羽が少しくすぐったくて。





「そうか、やはりあの子は神奈川第二か」


彼女が退院して、次の土曜日。
珍しくみんなより一足先に俺のもとにきた蓮二に聞かれて答えれば彼は少し納得したように言った。
大会ももうすぐ始まるし、無理はしないでほしいんだけどね。


「それがどうしたの?」
「いや、赤也が同級だと思ったんだ。あぁいう人物は見ている世界が違うからな。興味がある」


でも、蓮二はとっくにモニカちゃんのことを調べ始めているらしい。
いろんなヒトが彼女に引き寄せられるとは思っていたけど、ここまで来ると面白いなとおもう。


「ところで精市、それは?」
「あぁ、彼女がくれたんだ。すごいよね、手作りなんだって。」


それで、やっぱり蓮二の観察力はすごいと思う。すぐにそれをめざとく見つけたから、答えれば、すぐにぱらぱらとブックカバーのついた本を開き始める。


「彼女はどうやら精市のことが相当心配だったらしいな。」
「え?」
「ドリームキャッチャーは、悪夢をすくいとりいい夢だけを夢主に送る。悩んだり迷ったりしたときに、自分の行動を正しい方向に導いてくれるように祈るおまもりだ。」


すらすらと読み上げてぱたりと本を閉じた。
そのまま口元を緩めた蓮二に苦笑い。
ふわりと窓から入ってきた風が白い羽根を優しく揺らした。







彼女がいなくなって何度も夢を見た。
暗い世界で俺はいつもどうりユニフォームをきて立っている。
目を閉じれば耳に入ってくるのは歓声。そして開けば俺はテニスコートの上。

手にはラケット。相手は赤也。
サーブ、リターン。俺の体は酷く軽く動いた。あぁ、テニスをすることができる。


きっと、何度も治らないと突きつけられた俺に、彼女は諦めるなと教えてくれたんだ。







悪夢を取り払うように、彼女は俺に詩を紡いでくれた。





ーto be continuous

20180416



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