57

ぱちりと目を開ければ、すでに数日で見慣れた天井。圧迫感のようなそこから出てきた感じだ。

体を起こして、息を吐く。やっぱり病院はあんまり好きではない。


『…幸村さん。』


おそらく、彼はいろんなことに苦しんでいるんだ。ふぅっと、もう一度息を吐いてベットから降りる。それからまだ起床時間は早いけれど、隣の部屋へと向かった。ノックをすればまだ起きていないのか返答はない。本当はいけないかもしれないがそっと扉を開いて中に入る。

静かな病室。あれ、これ私不法侵入なのかな。なんて苦笑い。

明かりはついていないけれど、うっすら見える世界を頼りに彼のそばまで行く。失礼かとは思ったけれどそっと頭を撫でた。

悪夢は何とも言えないけれど…夢魔のせいではないと信じたい。信じたい。のだけれど…どうなるかはわからないから、


『大丈夫ですよ。大丈夫、誰も貴方を責めたりしない。貴方は貴方のペースで進めばいい。疲れたら立ち止まればいい。』


ベットに座って、やわらかい髪を撫でる。苦しげに歪められていた表情が、だんだんと柔らかくなっていく。それにホッとしつつ、手を握った。

この部屋自体に悪い気はない。彼にも、そういった類のものは憑いていないはずだ。…たぶんだけれど…本当にたぶん。そうしたらやっぱり心を病んでいるんだろう。


『(桃君。)』


来てくれるんなら、お願い。ちゃんと例のものを買ってきてね…。
じゃなきゃ門前払いするぞ、しないけど…







桃君は5時ぐらいに着くらしい。考えれば神奈川までありがとうと思う。その間 私はリハビリは無いし あったとしても 包帯を変えるぐらいなのだ。そろそろ家に帰りたい と付けたしておこう


「ふふ、龍ヶ崎さんは勉強熱心なんだね」


ただし 目の前にいる彼にも一つつっこみを入れたい。夜忍び込んだ私が言えることではないけれど、幸村さんは私の目の前でニコニコと笑っている。おそらく今日分のリハビリは終わったんだろう。


『私あまり授業でれないので、こういうときやるしかないんですよ』


とりあえずそう言って再びテキストに目を通す。現在やってるのは数学だ。
実のところ、正直 私は文系で理系科目が得意ではない。けれど そう言ってられないの現状だ。

今は 中学二年生。来年には高校受験を控えている。
私は青学の高等部に直接上がる予定ではあるが成績があるならば受験はしなくとも高校には上がれるだろう。部活をやっていない私には勉強しかないのだから成績落とすわけにはいかない

むしろ出席日数の方が足りているか心配だ。


「授業でれないの?」
『一年の後半なんて、休学とったぐらいですからね…』


幸村さんから言われた言葉に苦笑いする。でも、あの時あの事があったから今の私がいるようなものだ。「龍ヶ崎さんもわけありなんだね。」なんて彼は笑って、私のテキストをのぞき込み「なつかしいなぁ」なんていう。あぁ、そういえば彼は三年生だった。


「俺、教えてあげようか。」
『え?いいんですか?』
「数学は蓮二のほうが得意だけど英語とかなら得意だしね。」


でも、ここにきて強い味方ができた!ほんとにありがたいことだ。勉強が遅れるのは正直困る。本当に困る。


「うん、それでとりあえずそこの問題、公式間違ってるよ。」
『え。』


とりあえず前途多難な気がするがそこはスルーしておこう。



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