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日吉君は財前くんタイプだなと思った。
なんだろう、周りの2年生が物静かなだけなのだろうか、あったことはないが桃君がよく言ってる海堂君とやらもクール強めな気がする。テニス見ただけだけれど…氷帝のみなさんが去ってそろそろ夕暮れになりつつある病室に一人になる。日吉君とメアド交換したけれど、連絡、するのだろうかなんて疑問。っていうかなんで本当にみんなケータイを簡単に扱えるのか本当に謎なんだけれど普通に教えてほしい。
窓に向かうようにベットに座って色の変わっていく空を眺める。
夕日は好きだ。好きだけれど嫌いだ。どうしてかといわれれば何も言えないけれど、でも、昔と違って酷くあったかい。
あの時はただおびえるだけだった。誰にも理解されない世界で、たった一人で耐えてきた。閉じこもって泣いて、でも誰も理解してくれなくて、孤独の中で耐えていた。
『(桃君のおかげかな)』
彼に会わなければ、私はきっとあのままだっただろう。彼の暖かさには本当に救われた。
「モニカー?」
なんて考えていたら突然開いた扉にびくっと肩を揺らしてしまう。
振り返れば「あり、わりぃ」と片手をあけて扉を開けたまま固まっている丸井さんがいてあれ私少なくとも女じゃなかったかなと口元をひきつらせてしまったのは仕方ないことだろう。後ろから「丸井…」とあきれた桑原さんの声が聞こえてあぁ、彼も苦労しているんだなって思う、ごめんね桑原さん。でも、どうどうと中に入ってくるから謝る気はないんだなとか思うのは私だけじゃないはずだ。そしてその後ろに幸村さんたちもいるから盛大に驚いている。
『お話終わったんですか?』
とりあえず、そういえば「うん、ごめんね」と言われた。断じて謝ることではないから首を横に振るが「先ほどはすまなかったな」とその横にいる糸目の人が言った。先ほど?と首を傾げてしまいそうになったがおそらく初めて顔を合わせた約2時間前だろう、
もう2時間も立っているのか…
「ふふ、いきなり大人数で押しかけてごめんね、モニカちゃん。こっちが柳蓮二で、こっちが真田弦一郎だよ。」
そう思っていたら幸村さんがそういって微笑んだ。テニス部部長なんだよね、横にいる真田さん?がすごく顧問に見えるけど、生徒なのかって貫録あるからすごい怖いんだけど、
『私は龍ヶ崎モニカです。先ほどは失礼しました。』
とりあえず、私も立ち上がりぺこりと頭を下げた。さらり、と髪が流れる感覚がしたが、顔を上げたことですぐに戻る。目があった幸村さんがかなり驚いていたけれど何なのだろう。逆に、幸村さんの横にいた柳さんは「ふむ」とノートを開いて何か書き始めたが。
「っていうかよぃ、俺まだモニカがなんで入院してっか聞いてないんだけど。」
「おい、ブン太」
いきなり丸井さんがそういうもんだからこちとらびっくりしてしまった。いやいやいや、入院している理由とか対して関係ないとは思うのだ。見たことある人は平気だろうが、むしろ信じないという人のほうが多いだろう。あはは、と小さく笑ってしまうが、「そういえば俺も聞きたいな」なんて無言の圧力をかけてくる幸村さんには勝てる気がしない。
『熱湯かぶったんですよ。』
だから詳しくは話さずにそういった。腕のカーディガンをまくれば包帯だらけ、さすがにこれ以上は追及してこないだろう。火傷は比較的痕が残りやすい。
女が気にすることを男が突っ込んでくるとは思えない。にこりと、今度はこっちから無言で圧力をかけてみるが通じるだろうか。なんて、淡い期待なのだが、誰か助けてほしい。
「龍ヶ崎、お前は2年か」
と、思ったら突然そう言われて首を傾げてしまう。聞いてきたのは柳さんだ。どうして学年を、と思ったのはおそらく私だけではないはず。『そうですけど』とうなずけばまた無言になる。一体何なのだろうか…
「ふふ、蓮二は収集癖があるからね、気にしないで」
けれど幸村さんがそういってくすくす笑うからいいとする。さっきから笑ってるばかりだけど、大丈夫だろうか、なんて私の不安はたぶん届かないだろう。幸村さん、なんだか、笑顔で全部を隠している気がするんだ。あの夢を見たからだろうか…いや、そうでないでほしい。そうしたら…彼は…
「もう一ついいか。」
『はい、どうぞ』
なんてぐるぐると考えていれば、柳さんがまた口を開いた。丸井さんが「なんだ柳興味あんの」と少し驚いていたが、幸村さん、さっき収集癖といったが人の個人情報を集めるのが収集癖なのだろうか…。真田さんは意味がわからないというように眉間にしわを寄せている。
「出身はどこだ。」
柳さんの口から出た言葉に、今までで一番驚いたのは仕方ないだろう。いきなり出身?え?と疑問に思うのも仕方ない。横で桑原さんが「そういや龍ヶ崎は神奈川に住んでるんじゃないのか」と聞いてきたが、『私は東京住みですね』と返せば、すこし驚いていた。あぁ、そういえば桑原さんはおば様のところに行ったことあるんだもんね、そうだよね。うん。
『出身は神奈川ですよ。 小学校も神奈川でしたが、2年だけ通いました。』
「2年?」
『転校したんです。そのあとは東京の小学校に通いましたよ』
とりあえず、彼が何を言いたいのかがわからないのだが、何なのだろうか…柳さんはそれからもいくつか質問してきた。得意な科目だったり、クラスだったり、家族構成だったり、いくつか苦笑いで誤魔化してしまったものは上手く出来たか分からないがクラスを言ったときに桃君の名前が出てきたのは驚いた。桃君って実は有名人だったのかな。あとはどこで氷帝に会ったのかとか丸井さんたちとどういう関係かとか、ただの知り合いですとだけ答えたら丸井さんからブーイングを貰った。間違いではないはずだ。
まぁ、柳さんだけでなく幸村さんも興味があったらしく私のベットに座りニコニコしていた
少しは違和感をもってほしい。一人の女の子によってたかってこれはなんだ。少しおかしいだろ。
なんて考えていたら、面接終了時間になり彼らは退出。私の病室から見送ってまた苦笑いしてしまった。
「そう言えばあいつは言わなかったけど蓮二と小学校一緒なんだね 」
『え?』
二人きりになった病室の中で、あたりまえのように幸村さんが言った。
それにきょとんとしてしまったのだが、小学校?と首をかしげる。
『柳さん、神奈川第二なんですか?』
「うん、蓮二の場合は小学5年から転校してきたらしいけどね。」
それがどういう意味があるのだろう。
『何が言いたいんですか』と首を傾げれば「ううん、なんでもないよ。」と、彼は首を横に振った。けれど、一度下を向いてから、まっすぐと前を向いて目があう。その前はひどく優しいのに、瞳の奥の奥にある何かは冷たい
「でも、もしかしたら俺たちはもっと早くにあえていたら、またちがったのかな」
吐き出された言葉には一体どんな意味があるのだろう。それは何かを吐きだすように。何かに悲しむような、視線がなんだかうっすら怖かった。怖いなんて表現は失礼かもしれないけれど、でも‥
『幸村さん。』
「なぁに?」
『私ね、頑張れって言葉嫌いなんです。』
彼の名を呼んで首を傾げれば私の言葉に目をぱちくりとさせている。確かに私の言葉は唐突かも知れない。でも、伝えたかった。なんの支えになるかはわからないけれど、
『だって、幸村さんテニスを頑張りたいから入院して今を克服しようとしてる。十分頑張ってる。がんばれって言葉は、頑張ってる人にはただ、無理をさせる言葉なんです。だから、私は、頑張れって言葉が、嫌い。』
唐突な私の言葉に目をぱちくりさせてけれど、つらそうに眉間にしわを寄せると視線を下に落とした。彼は周りから何度も言われただろう。
がんばれと、
『貴方が望むなら、何度だって言いますけど、でも、私が言えるのは道は一つじゃないんです。確かに、今は「今」しかないけれど、焦る気持ちもあるけれど、一人でため込んだほうが辛いこともあるんです。それだけは絶対に忘れないで。』
そうしたらきっと、
あの夢は忘れられるだろうから、
そう考えていた私が、ただ、浅はかだったのかもしれない
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