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校内の中をとりあえず一周して、その後気になった箇所を回った。
一番は図書室だ。保健室、理科室、音楽室、家庭科室に情報室。
ほぼ全部をまた回ったのだが、結局なんの手がかりもなかった。
じゃあ、やっぱり学校外かな、とか思いつつため息をついたのだが「あ、一箇所回るの忘れとった・・・」と忍足さんが言ったのに考えが吹き消された。
他に、回っていないところなんて・・・あったのか・・・なんて・・・思っていたけれど、すぐに理由を理解する。確かに、部活に入っていなければ関係しているのは校舎内だけであろう。だが、財前君は部活に入ってからその場所も関係あるということで・・・
『部室・・・ですか?』
「おん」
「ほな、いこか、」なんて、告げられて、歩き出す忍足さんの後姿を見ながら、歩き出した。だんだんと、また指に熱が溜まってくる。
あぁ、そうなんだって思うのに、なんだかすごく複雑で悲しくなってしまった。
「ここやで」
だってもっとも熱を持ったのは・・・テニス部の前に、着いたときだった。…あぁ、とりあえず学校関係者のところに声かけたいなぁとか思ったのに、突然「・・・大変や!!謙也が彼女連れてきたで!!」なんて、部室からちょうど出てきたミルクティー色の髪をした人が叫んだから、一気に大騒ぎになった。
固まる私をよそに、忍足さんは「俺のちゃうで!!」なんて騒ぎ始めるし。いや、それを言いたいのは私もそうだが・・・固まっていれば後ろから衝撃が来て、あまりに強い力に耐え切れることもなく忍足さんを巻き込んでその場に倒れた。
「ぶっ」なんて、酷い声がしたが、巻き込んだことに文句は言わせない。私は悪くない。
「ねーちゃん!ほんまに謙也の彼女なんか!」
「ちゃうゆーとるやろ! っつーか、飛びついて来んなや!」
そして、後ろにいるその子を確認すれば赤い髪にチョコレート色の瞳をきらきらさせて私を見ている。面白いくらいに元気な子だな、なんて思うけれど、さすがに自分とおんなじくらいの子が飛びついて来れば重い。
「金ちゃん、女の子は体弱いばってん、飛びついたらだめとよ」
けれど、次には体が軽くなるひょいっと、誰かがその赤髪の子を抱き上げたからだ。本当に軽々。ぎょっとして顔を上げれば、そこには、ありえないほど身長の高い男の人が私を見下げている。
でも、ほわほわしてそうな人だ、ピアスしてるけど・・・肩に小さな子猫が乗っているのはスルーしていいはずだ、おそらく動物霊だし追い出すほど強い力をもっているわけではない
『えっと、ありがとうございます・・・』
「むぞらしかね、怪我はないと?」
『むぞ?・・・えぇ、怪我はありませんが』
そういわれたから、そう返せば笑顔でぽんぽんっと頭を撫でられた。おそらく方言だろう、関西弁とは違うそれはやっぱり謎な人だと感じてしまう。
が、へらへら笑うのにどうしてか癒される。マイナスイオンでも出ているんだろうか…
「まぁ、かわいいわね、ロックオン!」
「浮気か!死なすど!」
・・・ていうか・・・やっぱりカオス・・・なにこの落ち着きの無い部活は・・・
それから少しして何とかまとまった部室内だが、なにぶん空気が重い気がする
それは私の格好のせいだろうか・・・うん、第一に真っ黒な服っていうのもどうかと思うけど・・・
「うるさくして悪かったなぁ、 俺は白石蔵ノ助、テニス部の部長を務めとる」
「ワイは遠山金太郎言いますねん!よろしゅう!」
なんて、思ってたら私を忍足さんの彼女扱いした人と、飛びついてきた少年が言った。
白石さんと・・・遠山君ね・・・おんなじ一年生なのに越前君とは程遠い感じのタイプだな、遠山君・・・。
いや、越前君がおとなしすぎる、かも知れないけれど…
「俺は、一氏裕二や。」
「アタシは金色小春やで、」
「俺は千歳千里。むぞらしか譲ちゃんは何て名前と?」
なんて、二人が名乗り始めたのを皮切りにさっきまでいろいろ話してた人たちが、自己紹介をしてくれた。覚えられるかどうかは別だけれど、これだけ個性豊かなら大丈夫だろう。
『名乗るようなものでもありませんが。東京・青春学園中等部2年 龍ヶ崎モニカと申します。このたびは忍足さんに依頼され、財前光さんのことについて、解決する為にここにこさせていただきました。』
そうすれば、少しだけまた、空気が重くなった。そりゃ、青春学園のテニス部のみんなは関東大会を制し、全国へ行ったのだ。(桃君談)
ここの学校はどうか分からないけれど・・・偵察だと思われるのは辛い。第一に私テニス部とかかわったのは霊関係のことなんだけれど・・・そう思っていたら扉が開いた。
他にも人が?なんて思って扉を見ればそこには帽子を被りあくびをしながら入ってきた私の見知った顔。
「なんや、お前等、練習はどうし・・・って・・・なんで言霊使いがおんねん・・・」
『・・・うっそでしょぉ・・・』
オサムちゃんがなんで居るの?と悪態を付きそうになったが・・・
まぁ、大阪出身とは言っていた気がするし・・・ここに居てもそんなに不自然ではないが・・・
だけれど、どうしてオサムちゃんがいるなら私のところに依頼があったのだろうか、なんて忍足さんをにらんで『なんで私を呼んだんですか・・・』と悪態をついてしまった。私よりも呪術系はオサムちゃんのほうが強いはずなのだ。
「なんや、なんかあったんか?」
『いや、財前君が呪とかなんとか・・・』
理解できていないのか私に首を傾げたが私が理由を話せば目を見開いて「先に俺に話せっちゅうねん」と白石さんに声をかけていたが、
白石さんは「出張やったやん」とため息をついていた。本当に悪いタイミングに始まってしまったんだな…今回のことは…
「って、どういうことやねん、オサムちゃんがいるならって・・・」
軽く口げんかになってしまったが、気になったのか私を呼んだ張本人である忍足さんが言った。ぴたっととまる口論だが、そうだ、オサムちゃんは表舞台に立ったことはなかったんだ・・・
はぁっとため息をついて視線を上げれば「お前のせいやで」と文句を言われたが、第一に貴方がいないのがいけないんでしょう、なんていえないし、
でも、この学校の結界の意味が分かった。そりゃオサムちゃんがいれば結界なんて簡単にはれるよね。
「俺な、陰陽師なんや」
『かなり特例の陰陽師だけどね・・・』
「「「はぁ!?」」」
全員の心が一致したと思う。うん、この人が陰陽師だって紹介されたときは私だって驚いた。
しかも・・・妖を逆に使役するっていう・・ね・普通は倒すためだけだけど・・・私たちの式とはちがって、妖を一回捕まえて慣れさせそして共食い・・・っていったら言っただけど・・・そんな感じ・・・
妖は確かに式として私も使役はしているけれど・・・捕まえてって事はしたことがいない
第一に、契約を結び主従関係になったところからはじめるのが私流
だから、使役できる子達は少ないのだが・・・
「第一に財前どこやったんや」
『今おば様のところ、私の部屋で完全に呪断ち切って寝てる。相当やられてたみたい。』
「相手わかっとんの?」
『見当もつかない。』
財前さんの居場所は、やっぱり彼にとって必要なことだろう、だからそういって、目を閉じた。
まぁ陰陽師がいるのならば問題は無い。呪いを解くのは彼に全部任せてしまえば大丈夫だ
ただ、見つかればの話しだが・・私の小指につながれている糸をみて「ほんま、すまへんな」と彼は表情を歪めた。
「モニカ、状況の説明お願いするで?」
『うん、もちろん』
「他の連中はさっさと練習や!」
さすが、顧問といったところか、一部から文句を言われたがぞろぞろと部員たちは部室を後にしていく。二人きりになった部屋でそれぞれが椅子に座り、今までの経路を話していった。ただ、重苦しい空気の中、オサムちゃんに今までのことを話していく。
といっても、私が知ってるのは神奈川まで忍足さんたちが着たことと財前さんの今の状況だけ一通り話せばオサムちゃんはため息をついた。
「ほんま、遠いところをわざわざすまんかったなぁ・・・財前のことも、こっちのことに巻き込んだこともや」
『こっち?』
「・・・禁書や。禁書が外に漏れてもうた」
謝罪、そして、いわれたことに思わず目を見開いた。
オサムちゃんの口から禁書なんて言葉聞くとは思わなかった。
いや、それよりも禁書が外に漏れた、なんてそのことのほうが私には理解ができず、思わず『本当?』と聞き返せば、「その件で出張しとったんや」と返された
『・・・禁書って・・・』
「禁忌中の禁忌や・・・黄泉帰りなんてな・・・」
ぞくりと、悪寒が走る。
黄泉がえりは絶対にやってはいけない。
それこそ、・・・禁忌・・・
それは犯してはならない罪。
人を生き返らせることは絶対に犯してはならない罪。
生と死を分かつ、その場から無理に引きずり出せば狂い、そして世界の理は崩れるだろう。
そして、死人を生き返らせることには多大な犠牲も強いる。
例えば・・他の人間の命を無意識に削るような・・・そうそれは呪いの一種。
『目安は・・・?』
「お前のほうが分かるやろ」
そののろいは解けるのか・・・かの者に何をもたらすのか・・・また、何かを奪っていくのか・・・さぁ・・・おかしくなれ
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