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二人を連れて道を歩く。
私が知り合う男の人たちは大体イケメンの部類だと思う。なんだこれは…
私たちが制服だからかすれ違う人たちがこっちを見るけれど、今現在特に意味はない。
とにかく今は、早くあそこにつくことが先決だと思ってる。おそらくだけれど、これは呪いの一種。
私は専門外だから、あんまり分からないけれど・・・さっき、彼の周りが、何かの気で覆われていた。彼、というのは黒髪の方の人だけれど・・・
結構・・念が強いというか・・・どう言い表せばいいのか分からないけれど・・・
私は、霊を払うことしか出来ないから…だからおば様に知恵を借りたほうが明らかに良いだろう。というよりもおば様が受けた依頼だよね、これ、少なからず…私はただ迎えだけで…いいはずはないけれど…
「ちょ、ちょい待ちぃや!」
なんて、考えを張り巡らせていたらいきなり手をつかまれて、立ち止まる。振り返れば険しい表情のままの、金髪の彼。目には戸惑いや不安が入り混じったまま、でも、それを隠そうとしてるのか、強がりなのかはわからない。
「なぁ、状況だけでも教えてくれへんか。なるべくなら早めに帰りたいねん、 もちろん、財前の・・・こいつの原因をちゃんと解決してな」
私にそう言って、財前・・・もう一人の彼を見た。確かに、さっきよりも顔色が悪くなってる。
仲間想いないい人、だとは思う。けれど、私にだってできることとできないことはあるのだ。
『私じゃ、解決できないから早く移動して、おば様に・・・神主さまに見てもらった方がいい。』
だから、正直にそう言って目を細める。そうすれば、眉間に皺を寄せて「せやかて、」と否定の言葉を述べる。あんまり不安にはさせたくなかったけれど、おそらくこれは正直に言ったほうがいいのだろうか、なんて思って、一つため息をついた。
本当、できれば言いたくなかった。
『じゃあ言います。私の独断で考えれば、かなり強力な「呪」ですよ。呪は、私の専門外ですから、』
それに、「最悪術をかけた本人も、死ぬ可能性がありますから。」と続ければ、目を見開いた。当たり前だろう、呪いなんて普通聞かない言葉だいや、言葉だけではいくらでも聞くだろうが、直接そんなものにかかわる人間は少ないだろう。
それに呪いだとしたら、呪い返しにあう場合だってある、全部考慮しなければまず、始まらない。
「っちゅーか・・・お前、何者なん?」
そんなときだ、後ろで今まで黙っていた黒髪さんが、私に言った。
その声は思ったより小さかったけれど、彼がそこまで元気!というキャラには見えない。
から、それがある意味の普通なのだろう。でもさっき私、いったような気はする…が…彼はつらいからだろうから聞きのがしたかも知れない。まぁ、何回言っても平気だ。名前ぐらい。
『東京都私立青春学園中等部2年所属 龍ヶ崎モニカ。一応祓い屋ですが、まだ見習いです。』
*-*-*-*-*
「遅い!!」
『・・・』
思わず固まってしまったのは、仕方ないことだと思う。いや、正直そうしてもらいたい。
目の前に居るのは、私の知っているおば様ではなく。
私のような黒髪でそして翡翠色の瞳。確かに、おば様の瞳は翡翠色だけれど、明らかに違う。乾いた声で、『お、ばさま?』と確認するように口を開けば、彼女は一つため息をついて「ともかく客人を通しなさい。客間じゃなくて、アンタの部屋にね。」と言葉を吐き、くるりと身をひるがえした。だが、今のにはいろいろと聞き捨てならないものがある。
『ちょ、私の部屋って・・・』
「遮るには丁度いいわ。」
遮る。その言葉にひどく納得してしまった。
呪いのもとからさえぎってしまえばいいのかと、そしたら確かに私の部屋が一番だな、とか…
去り際に「着替えてらっしゃい」なんて言って奥に入っていくのに、あぁ桑原さんが巫女さんっていうわけだなんて、考えてしまった。そういえば彼はいつ、おば様に会ったのだろうか…。まぁ、それは後でも考えて平気なことだ。
今は、黒髪さんのことが、先決。
『どうぞ、』
「お、おん・・・」
「お邪魔します。」
玄関で靴を脱いではじによせて、それから玄関で固まっている二人をみて、そう言って私はすたすたと家の奥に入っていく。
4ヶ月ぶりの実家?って感じかな。そんなに時間がたってないからあんまり実感わかないけど…タンタンっと二階に上がっていく。やっぱり私は洋風よりも和風が好きだ。だから凄くおちつく
それから元の私の部屋・・・もとい、特訓部屋だけれど、そこの扉を開ければひんやりとした空気が私を包んだ。
あぁ、でも、この空気はまだなれない。
振り返り、「ここです」といえば彼らが部屋を見た。明かりがあるうちにろうそくに火をともさなくっちゃなぁとか考えるが、マッチどこにあったっけなぁ…とか、考えるのは余計なことだろうか、
「せや、俺は大阪四天宝寺中3年の忍足謙也や。よろしゅうな」
「・・・同じく四天宝寺2年。財前光・・・」
『はい、よろしくお願いします(・・・ん、忍足・・・?)』
なんか、聞いたことあるんだけど…気のせい…なのかな…いや、それも今考える必要はない。二人を部屋の中に招き入れて、部屋の隅にあるろうそくに置いてあったマッチで火をともした。部屋の中は、酷く静かだ。
スタスタと歩いて奥のろうそくに火をともして回る。
ふわりっと部屋に明かりが広がっていくのを見ながら、部屋の床に描かれた陣が現れるのをみる。
それと同時に「うわ、なんやこれ!」という忍足さんの驚きの声に振り返った。彼が驚いたのは陣の周りに置いてある水の入ったガラスの球体に対してだ。
『結界です。 触らないでくださいね。』
部屋の四方のガラスの球体には私が作った水を入れるためのものだ。強度な結界を作るために、かなり時間かかったけど。でも、割れない限り水はそこにあり続ける。
上から念を込めれば水はさらに力を増してくれるはずだろう。今の私にはまだ意味もないことだけれど。
『財前さんはその陣の中に入ってください。忍足さんは陣の外にいてくださいね。』
でも、他との遮断力はかなり強いはずで、呪の類であっても遮断できるはずだ。
だから、財前さんを陣のなかに招き入れる。
「なんやねん。」
忍足さんがちょっとむっとしているが、今回はスルーする
財前さんを陣の真ん中座らせて、背後に立ち、ぽんっと肩を叩いて目を閉じて、ゆっくりと開いた。
みえたのはまきつくような、鎖・・・?
『(これ、まずいかも・・・)』
嫌な空気だ。私じゃ、全然手に負えない・・・。ガラっと突然開いた扉に顔を上げればそこには巫女服のおば様の姿があって、着替えるの忘れたなぁ、とか思ってしまったが、「どんな感じじゃ?」と普通に聞かれたからそこまで気が得るのは重要じゃなかったのか、と思った。いや、別に制服でもできるし、問題はないのだけれど、素直に『私には無理』と答えればただ一言「そうかい」と返された。
が、それで納得いかなかったのは忍足さんだった。私のことをにらみ、「どういうことや」と、地を這うような低い声で言う。たったその人ことでも忍足さんの声が私の耳に届いた。
また別の嫌な空気が流れていくが、何よりも原因がわからないんじゃ元も子もない。視線をおば様に向ければ、またふぅっと息を吐いた彼女は「モニカ、学校に式はとばしているわね?」と私に聞いた。
うなずくんじゃなかったと、あとで後悔しても遅いだろう。
*-*-*-*-*
『冗談でしょ・・・』
荷物を持たされて電車のホームで思わず呟いてしまった。
横では忍足さんが私を睨んでいる。
「・・・なんやねん、どうせ、できんのやろ」
『だったら協力してくださらなくて結構です。』
それからそういわれたから思わずそう言ってしまった。だってそうでしょ。気分悪い。
頼んできたのはたとえ依頼だとしてもそっちだというのに・・・
小指に結われた糸。他の人には見えないだろうケド、財前さんの感情が分かるように呪いをかけた人物を特定できるように。と、おば様が私と財前さんにくくった糸。
お互いに悲しいとか、痛いとか、苦しいとか、そこらへんの感情だけは通じるところがあるから気をつけなくちゃなぁとか思うけれど、改めて彼がかなりきつい現状にあったことを理解出来た。
結ばれた直後に、私を襲ったのは息苦しさとけだるさ。ただ、彼は少し軽くなったそれに少しばかり驚いていたが、まぁ、私のほうがそういうのに敏感だから、ということにしておこう。
とりあえず、一番そばにいるであろう桃君に私の式のことだけ話しておこうとケータイをいじって電話帳を開いて、メール作成画面を開こうと思った、のだが、
『・・あれ?』
どうやってもできない。あぁ、もう、本当携帯って使いづらいな。
カチカチカチカチと無駄にいじっていると、「なんやのろいやっちゃなぁ」なんて、隣から少し機嫌の悪そうな声。
『機械オンチなんです、』
「何しようとしてんねん。」
だから、彼に向けて『メールしようとしてるんです』と、いえば「そしたら此処、ここをこうするんや」と、ケータイのボタンを押して操作してくれた忍足さん。
とたんケータイはメール作成画面に切り替わり『おお・・』っと、感嘆の声を上げてしまったのは仕方ない。最近の若い人はこういうこと上手いのか…
なんて、思いながら『学校にいる私は術で作った人形だからごめんね、私じゃないからあいそうわるいよね、できれば保健室に押し込んでおいて」と打ちこんで送信した。あとで返信されて着たら時間を見つけて電話して理由を話そう。メール怖い。
ただ、一つ言えるのは
『(早く終わらせて、早く帰ってこよう)』
ただ、それだけなのだ。
じゃないと授業も遅れちゃうしね
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