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いつも着ている黒い服とは違う
白いチェックのワンピースに薄手のカーディガン。
それにサンダルをチョイス。
はっきりいっておしゃれとか興味ないからよく分からないけど・・・
『行って来ます。』
【にゃーん】
トントンっとあまり履かないサンダルに足を通して玄関まで見送りに来てくれた兄さんにそういう。ひと鳴きした兄さんは玄関に座るとゆさゆさとしっぽを揺らしていて、一度抱きしめてから私は家を出た。
今から出れば待ち合わせにはきっと充分間に合う。
これから行くのは神奈川と東京の間ぐらいにある駅だから、おば様に見つからないように気をつけなくちゃね。
なんて思いながら久々のおでかけにわくわくしてるのは私のほうかもしれない。
ショルダーバックの中にはケータイとお財布
それから念のため数珠と札、それから聖水と本当に念のためのブレスレット
なるべく霊をみたくないから、眼鏡をかけて歩き出した。
ちなみに、待ち合わせの○×駅に着いたのは待ち合わせの時間よりも10分ぐらい前。
電車のホームを過ぎ、駅前に出れば丁度いいぐらいに木の日陰にベンチがあって、私はそこに座った。
こういうとき、待っている人はきっとケータイとかいじってたり、本を読んでたりするんだろうけど、あいにく私にはそういう趣味的なものはない。
ため息を付いて眼鏡に触れる。
さっき、変なもの見えたんだよね。何て思いながら・・・。まぁ、今回は申し訳ないけどスルーで、って自己完結した。
「ねぇ、お前一人?」
なんて・・・ね。
ボーっとしてたらいきなり声がかけられて、私は顔を上げる。
眼鏡越しで、目の前の・・・赤い髪の男の人と目が合った。その後ろには外人さん。その人はどこか・・・不思議というか・・・
『(不二先輩と同じ雰囲気だ・・・)』
そうだ、不二先輩に似てるんだ。雰囲気が。
「へぇ、可愛いじゃん。今から暇?一緒にデートしねぇ?」
「おい、ブン太!」
「へへ、結構本気なんだけど。ジャッカルうるせぇよぃ。」
どうやら赤髪の人は「ブン太」外人の人は「ジャッカル」というらしい。
・・・どんなネーミングセンス?だってそうじゃん。
どっちも動物の・・・あれ、違うか。っていうか大分私失礼かな、
『私、知り合いを待ってるだけなんです。』
なんて、思いながらそういえば目の前のブン太さんは「えー、」っと残念そうな顔をした。ジャッカルさんは当たり前だ、みたいな感じだけれど・・・・・・う〜ん・・・やっぱりジャッカルさんって変な感じ・・・
めがねかけてるからあまり分からないけれど、霊にとり憑かれてるとか、そういう部類じゃないから大丈夫・・・と信じよう。そう考えながら二人を見ていたらケータイが震えた。はっとしてケータイに出れば、「芥川さん」の文字ですぐに出る。
『もしもし、龍ヶ崎です。』
【あ、モニカちゃん?もしかしてもう駅の外にいたりする?】
名乗って、そうすれば芥川さんはそう言った。時計を見れば集合時間3分ほど前。
もしかしてこっちの出口ではなかったのだろうか、と一瞬ぞっとしたが「なになに?彼氏?」と、あいていた左隣のスペースに座ってブン太さんが言う。
そうすれば、電話の奥から【あれ!?丸井クンの声がするC!】なんて驚いたような芥川さんの声にまた疑問が増えた。
電話の奥で忍足さんのあきれたようなため息が聞こえたけれどスルーしたほうがいいのか・・・
なんて考えていたのに横にいるブン太さんも「あれ?ジロ君の声するんだけど」と不思議そうにしていて、ヒョイっと私の手からケータイを抜き取ってまるで自分の物のように「もしもーし」と会話を始めてしまった。
手の中にあったケータイはほぼしゃべったこともない人にとられてしまい、空っぽになる
『(自己中な人だな、この人・・・)』
そう心の中で呟いてため息を付けば、ジャッカルさんが「わるいな、ブン太が。」と申し訳なさそうに謝ったので、「大丈夫です」と返した。
芥川さんたちに合流できたのは待ち合わせを5分過ぎた後だった。
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