033

「あかんゆーとるやろ!!さっさと逃げっ」
『「うるさい!!」』
「っ!?」


さっきから逃げろ逃げろ言う忍足さんに私と萩の言葉が重なって反論した。
扉の奥で驚いたように息を呑んだのが分かる。仕方ないでしょ、なんて思いながら目の前の敵を睨む。といっても姿は私、つーかニヤニヤすんな。


「ねぇ、忍足、部屋の中はどうなってるの?」


なんて思ってたら萩がそう言った。どうして、と思ったけれどもし、中に何もなかったらこのままここを突き破ればいい。ということだろうか…


「なかって…普通の洋館の中やせやけど・・・調べとって見つけたんや、ここの床に変な陣が書いてある」


陣。それは私のように結界を作り出したりするものだったり魔を使わせたりするときに必要なものだ。そして、それは私や、萩のように力があるものしか使ってもあまり意味はないと思う

なのに・・・どうして・・・幽霊が使えるとは思わない・・・
それどころや、鬼や、魔物だなんて・・・


「本当に・・・変な点がたくさん出てきたね・・・モニカ・・・」
『私たちが・・・驚くぐらい・・・ね・・・』


これは、人が人工的に起こしたもの・・・芥川さんのお守りといい、今回のことといい・・・
不自然な、点が、多すぎる・・・だけど、そんな事、今は関係ない。


『萩、お願いがある。』
「え?」


ここに来たからか・・・だんだんと、鬼の妖気が高くなっていってる。
早くけりをつけないと・・・本当にまずいことになる・・・それに私の体あいつがもしも気が付いてくれれば…


『萩、私に思いっきり剣をさして』


最終手段だホント私死ぬかもしれないけど、そう言ったとき、萩は本格的に顔を青くした。
ごめんね、ごめんね。でも、これ以上萩や本物の忍足さんを危険にさらすわけにはいかないから。


『大丈夫だよ。萩の剣は・・・大切なものを、守る為にあるんでしょ?』


そう笑えば、萩は、眼を開く。
にこり、微笑んで見せて、「私」を見た。

一瞬。本当に、一瞬だけだ、すぐにふり払われるかもしれない。どれだけ出来るかはわからない。


『萩!!』
「死んだら許さないよ!」
『もちのろんだよ!』


霊体の私が出来ることは少ないけれど、だんっと地面に手をついた。それは、窓から差す光に、伸びた私の影。ほら、影踏みってあるでしょ?
あれだよ。私の影だからね、押さえることぐらい、簡単だって事。


「風翔っ」


萩が剣を振り上げた。ごめんね。萩。無理なこといって、本当に、ゴメン。
体にはしった激痛。べリべり、っと何かがはがれる感じ、
それでも、一瞬だけ離れた黒い靄に、私は自分の体が再びあの靄に取り付かれないうちに飛びついた。瞬間、身体を襲うのは、痛み。物理的な痛みもあるけれど、まるで、拒絶されるような、痛み。
私の身体じゃないような、そんな感じだった。そりゃ、自分じゃないものに乗っ取られていたんだ、仕方ない…。でも…本当、参っちゃうね…こういうの。


「モニカ!」
『私はっいいから!!』


でも、影はちゃんと踏んだまま。

だから、あの黒い靄は私から離れることは出来ない
私に構うんだったら早くその靄をどうにかしてください。いや、まじで・・・

ポケットの中から聖水を出す。どうやらさっきまで私の中にいたやつに感化されていないみたいだ。いやそうそう感化はさせないけれど…

それを伸びている靄に向かって小瓶ごと投げつける。ひどい断末魔が聞こえたがそんなのは気にしないことにしよう。早く終わらせなくちゃ…

じくじくじくじく

熱を持つように痛む傷は自分の罪だ。あーぁ…おば様に知られたら怒られるどころじゃないなぁ、とか、他人事で…視界の端に萩がまた剣を振り上げたのが見えた。どうか、もう終わりにして





ガシャン、と鎖を落とす音。
先ほどよりも幾分軽くなった空気の中でその音がまっすぐに耳に届いた。

とりあえず止血をしてその光景を見る。扉は鎖を解けば簡単に開いて、そして中から青い顔をした忍足さん(らしい)人が出てきた。


「忍足、大丈夫かい?」


いや、萩がそういったからおそらくあの人が忍足さん本人なんだろう。何もないようでよかった、と思うけれど、あんまりここにいるのは危ないと思う。
邪念…じゃないけれど…そういうのがたまったところに長時間人がいるのはあまりよくない…。


「あぁ、俺は平気や…そこの嬢ちゃんは……!」


なんて考えていたら、扉から出てきた彼は壁に寄りかかる私を見てざっと顔色を変えた。
目を合わせていたからよくわかる。私のすぐそばまで走ってくると赤く染まったハンカチを見て苦痛に表情を歪めている。どうして彼がそんな顔をするんだろう。

謎が謎を呼ぶ…ではないが…


「なんちゅーことしとんのや…」
『不可抗力です、』


本当につらそうに言うものだから目を細めてそういった。だって誰かを助けるためならば、私が傷つこうとどうでもいい。なんて、ただの弱虫の一人ごとだけれど…

ただ、屋敷を調べたいなぁとか思っていた私の行動は萩と忍足さんに強制的に止められ連行された、解せぬ。





廃墟から忍足さんの家に強制連行された(血まみれの服を隠すために氷帝のブレザー着てる、汚れないか心配だが…)しまいには着替えて来いといわれ、忍足さんの着なくなったTシャツを渡された。どっちにしろ服はぼろぼろだからどうしようか…。
なんて考えているが、目の前の光景はなんだろう。ととても疑問に思ってしまう。


「ほんま、なんやったんや、自分ら・・・」
『いや、あの、とか言いながら消毒液ぶっかけるのやめていただけますかね?』


刺されたその部分を治療していただいているのだが、これがまた痛い痛い。萩曰く彼の親御さんは医者らしく、彼も医者を目指しているらしい。
で、そんな彼から言われたのはその言葉だ。あれ、切れ味いいからね・・なんて、笑ってしまう。



「痕残ったりしちゃうかな。」
「いや、あんま触んなきゃ大丈夫やとおもうで、でも結構深くいったなぁ」
「『・・・』」
「え、なんでそこで互いに黙るん?」


それから心配した萩がそう言って、忍足さんがそういう。私と萩が顔を背けて無言になれば、きょとんっとした忍足さんが、首をかしげていた。しかたない、彼は知らないほうがいい。世には知っていいこととわるいことがある。


「でも、まぁ、内臓に傷はついとらんと思うし大丈夫やとは思うけど・・一応詳しく検査してもらうか?」


それから一通り治療してもらって、それからそういわれた
つけたしで「治療費は、俺が出すで?」と聞かれたが、私は首を横に振る。
そんなことしたら、おば様にばれてしまうし・・・


「ほんま?」
『えぇ、身体は結構丈夫な方なんで、・・・で・・・あそこにどうしていたんですか?』


不安そうに聞く彼に笑顔でそう言って、次に私がそう聞いた、
萩はおそらく忍足さんのベットに座って、剣を磨いてる。
血って結構さびるの早いからね・・萩に悪いことしちゃったな・・・


「あー・・俺もわからへんくて・・・ちょうど、ジローが一緒におったんよ。そのときジローな、お守り拾って、俺は不気味やからって捨てろっていったんやけど、結構古くて、でもしっかりしたものやったから、きっと大切なものやからって、ジローもってるっていうてたんや。そのあと、記憶なくてなぁ・・・」



あぁでも・・・

死神っていう、言葉が聞こえたんよ。




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