032

屋敷の中は凄くボロボロだった。

蜘蛛の巣は当たり前、材木が腐って土になったのか、雑草は生え放題。建物に雑草生えてるなんて初めて見たよ…。窓ガラスはひびが入ってて、そのひびから隙間風が入り込んでくる。


「なんや、床抜けそうやな・・・。」
「足元気をつけなよ、忍足」
「アホ、気をつけとる、」


ただ、言えるのはこの屋敷の古さは尋常じゃない。私は今、足・・・というよりも実体がないからあまり関係はないが、萩たちが歩くたびにギシギシと床は悲鳴を上げているから萩がそう言いたくなるのも頷ける。


「モニカ、変わりはない?」


なんて、考えていたら萩が私に聞いた。はっとして彼を見れば、不安そうに萩は私を見ている。だから、安心させるために微笑んだ


『うん、大丈夫、まだ、大丈夫だよ。』
「危なくなったらすぐに言うんだよ。いいね?」
『うん、ありがとう、萩、』


私の言葉にホッとしたように萩はため息をついているが、彼は恐れているんだ。普通を失うことを、仲間を失うことを、友達を失うことを、親類を失うことを「ココロ」を失うことを・・・
私だって誰かがかけるのは怖い。喪ったからこそ、これ以上喪うのは、怖い。


「にしても・・・なんなんやろう・・きもちわるぅなってきたわ。」


そんな時だ、忍足さんがそう言った。それに私と萩の視線が向く。
私たちは、普通だ。萩が警戒をするために力を使っているだけ・・・それだけなのに・・・
あぁ、けれど…納得してしまう私がいた。そっと萩の手に腕に軽く触れる。霊魂だけの私の意思は、彼に通じやすいはずだから…。



屋敷を散策し始めて、早30分ほど経過しただろう。しかし、ここに来るまでになんども、何度も違和感の壁にぶつかったが、理由が分かっているからいいとする。だが、しかし、いつまでも、その対となる力をぶつけ合っていれば、慣れないこの体では危ないだろう。


『・・・萩・・・』


それは、戻ったとき、私にも悪影響となる。だから萩に・・・
一度、ちらりと忍足さんを見てから萩の視線は再び私を映す。


「うん、そうだね。」


おかしいね、と、萩は眉を寄せた片方の瞳を隠す、前髪が、ふわりと先ほどよりも強くゆれた。それは、萩の力。


「なにが・・おかしいん?」


霊力が高まった、この空間に他の霊は恐れをなしてにげるだろう。
その前に、この屋敷はおかしいのだ。これだけ古いのならば、物に憑く憑物神(ツクモガミ)がいてもおかしくないのに一人もいない。それは・・・


『お前が、おかしいんだよ。    鬼。』


ブワッと、瞬間萩の風が強くなった。萩の手には剣。



「ここには陰の気が集中してるんだ。そこに、鬼のお前が来たら力をます。俺は、モニカを失いたくないからね、 ずっと力を使い続けてたんだ、だから鬼であるお前は辛かったわけ。」
『・・・第一に、ただのっていったら凄く失礼だけど、人の霊魂が霊力の高い人間の霊魂をはじき出せるわけ、ないでしょ?』


最初っから疑問だらけだった。だから自滅してもらうためにここまで来たのだ。さて、どうやってやろうか
萩が巻き起こすのとは別に、強い風が吹く。古びた窓を破壊し、それは私の身体に降り注いだ。仕事着やら腕やら・・・切れて、


「全く・・・モニカの身体なのにね」


横で私じゃなくて、萩が怒りを含んだ声色で言った。いや、確かに私も怒ってはいるけど、アレぐらいだったら・・・ねぇ・・・逆に洋服切れたほうが私はいやなんだけど…。


『萩、思いっきりやっちゃっていいよ。』


だから、横に居る萩にそう言った。でも萩は首を横に振る。
ぎょっとして萩を見れば、じっと私を見ていた。その目はただ、まっすぐ私を映していて、何よりもすべてを決めた瞳だった。


「モニカを、俺は傷つけたくない。」


そして、そう言って私を掴み、走り出す。ビリ、とその瞬間軽く電気が走った。
きっと萩にはわからないだろう。けれど、これは萩を…拒絶したことにもつながってしまうのだ。私が、「実体のない者」だから。萩の力を、拒絶したから・・・。私自体が、ここの気に当てられてきてる・・・


『(・・・決着つけないと・・・)』


早く、忍足さんを見つけなくちゃ・・・忍足さんは何かしら解決策を知っているはずだ。もし・・・駄目だったら… 


『(私の身体だ・・・あれが出来るはず・・・)』


自分でどうにかするだけ・・・自分自身の身体だし・・・今までたくさん修行だってしたんだ。
出来ないことはない・・・大丈夫・・・


『(萩・・・)』


身体に負担はかかるけれど・・・
きっと・・・大丈夫・・・


走って走って、逃げ回った。
外に逃げようと思えばいつだってできたけれど、でもそれじゃあ意味がない


「モニカ、ここだ!!」


鬼をまくように走り、萩が飛ばした紙人形をやっと見つけた。古びた、けれどご丁寧に鎖を幾重にも巻いてあるその扉にベタリっっと紙人形は張り付いている。
おそらく、この中に本物の忍足さんがいるのだろう。

ガンガンッ

萩は力の限り扉を何度も殴りつける。そのたびにかけられている鎖は音をたてたが、それに負けないほど「ここにいるんだろ忍足!!」と叫んでいた。そんな中だ、「萩?」と中からは確かに、先ほどまで聞いていた忍足さんの弱々しいしい声が聞こえてきた。彼は、この中に居る。そして、生きている。ただそれだけなのに、私と萩は安堵した。


「なんで・・・おるんや・・・ここに…なんで・・・?」
「安心して、すぐにだすから」
「あかん!!その鎖、解いたらあかんで!!」
『忍足さん?』


けれど、萩が鎖を解き始めた瞬間、中から切羽詰ったような声
萩は鎖から手を離さずとも、驚いたように手を止めた。


「この中、変なんや、絶対に解いたらあかん!!絶対や!!」俺は大丈夫やからすぐにここから出ろ!!


ガンッと、扉の中から一発叩いたのだろう、ガシャンっと鎖が音をたてた


【そうだ、今すぐここから出るんだな】


その瞬間だった、後ろから私の声で、その言葉。はっとして、二人で振り返ればそこには、さっきのガラスでところどころ切れて血が流れている私。ヒュッと、喉の奥で、息がかすれた。にやり、と「私」が笑う。その影が・・・「あの時」と被った。


「今すぐ逃げろ!! 俺みたいになってまう!!」


ガシャ、ガシャ、扉が強く。強く、叩かれる。
でも、


『っ逃げらんないよね、』
「もちろんだよ。」


もう逃げたくない


『二度と、繰り返さない』


来るな!化け物


あの言葉が、頭を支配していく。
そう、私は


『化け物だとしても・・・』

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