027


『・・・すぅ・・・はぁ・・・』


地面に書いた陣。四方に置いた盛塩と水。
その場にゆっくり下ろされた芥川さん。

この中は純粋で強力な結界の中心部。私は萩に視線を向けた。
萩は細かい装飾の施された剣を両手で構え頷く。

宍戸さんと、向日さんはもう戻ってもらった、理由は簡単、彼らは普通の人で、危ないから。

スゥ、はぁ、と深く息を吸って、視線を彼に向けた。


ウゥゥゥウウウウウウ


集っていた小さな霊たちが、一つに集っていく。弱い霊は喰われ、強い霊はより強く。
すぅっと息を思いっきりすって、だんっと地面に手を着いた。

集まりかけていた霊がバッと分解され、そして結界の外にはじき出される所詮、この結界の中にいるのがちらかった小さな霊たちだ。
放っておいても平気。
けれど、そうはできない。


『萩!』
「勿論だよ。風陣!」


萩に叫べば瞬時に彼は術を発動して、周りに飛び散った弱い霊を除霊していく。小さくても、この場にいたからには安らかに眠ってほしかった。
ただ、それだけなんだ。けれど問題はここからだった。


ユル・・・サナ・・・ イ


芥川さんにまとわりついている霊たちの呻きが、言葉に代わる。
さっきまで自我をもっていなかったのに・・・

目の前の霊の集合体はユラリ、とゆれた


「モニカ!」
『っ!!』


あぁ、やってしまったと、気がついてからでは遅い。芥川さんと彼にまとわり着く霊を囲んだ一番強力な第一結界。

私と滝、先ほど追い出した下級の霊・及び妖をはじき出し逃がさないように作った第二結界
そして外から霊が来ないように作った第三結界。

だんだんと広くなっていってるが、芥川さんに施した結界は狭い。
彼が危ない。




『・・萩、結界を解くよ。』

「・・・そうだね、」



小さく、声を発すれば萩も私の言いたいことが分かったのか頷いてまた刀を構える。



何がおこるか分からない。

結界を解いたとき、一瞬だけ私に隙が出来る、その瞬間を狙われたら、私は終りだ。
この近距離だし、何より、結界を解いた瞬間に芥川さんをこちらに引き込まなくてはならない。


「モニカ、大丈夫だよ。」


でも、あの方法を使えば、後ろにいる萩も巻き込むことになっちゃう。

そんなのいや・・・





『・・・っ』



パチンッ
指を鳴らして、私が取った方法は


「!?」
『っ!!』


結界の位置をずらしたこと。

ジュッと、頬に電熱線のような痛みが走り、後退しつつ、その攻撃をかわす。狭い空間は逃げることは難しいだろう、でも、私に今できるのはこれだけ。


「モニカっ!!」
『萩は芥川さんを!!』
「だけどっ」


大丈夫だから、って言って笑った。
気がつかないでと、願いながら

とにかく芥川さんから距離をとる。

一定距離を過ぎれば影が薄くなって武器でも被害者を最小限の痛みや被害を最小限にすることが出来る。
何もしないよりはましだ。

走って走って、萩は私の意図が読めたらしく駆け出した。
早く早く、「何か」を切る音。



ギャァァァァァアアア



『っるさ』



上がったのは凶器にも似た叫びに小さく愚痴を零し、両耳をふさぐ、
その霊の後ろでは、芥川さんとの間にある影を剣で刺す萩の姿。


「こっちは大丈夫だよ!!」
『りょーかい!』


一瞬、萩の方に鬼の意識が向いた。
その一瞬が、チャンス。

ポケットに突っ込んでいた陣を描いた紙をだす。
それを広げ、手首を小さな小刀で切り、を紙にたらした。


『今、我の名に、そなたを呼び起こそう、水帝っ』


ブワッと私を包んだのは、冷たく、暖かな水。


ゴポリ・・・


萩が驚いている。霊はこちらを警戒している。

萩が驚くのも無理はない、
私だって最初、この術を発動したときには驚いてパニック状態になり、おば様に救出されなかったら、もう二度とこの子を面に出さなかっただろう。

けれどしっかりと修行をすればこ、この子は思いのほか私に忠実だった。ユラリ、私を包んでいる水が揺らいだ。

きっと私の心を読んだのだろうか、そう思いながら、うっすらと目を開いき、揺らめく水のなか、外気の悪意に接し始めた、その霊はだんだんと大きくなっていく姿を眺める

いまだ水の中でも血を流し続けている片手を肩と平行線になるまで上げて、そして鬼を指差した

傷口から予想以上に血が流れ、少しくらくらしているけれど・・・大丈夫
まだ大丈夫。

ふぅっと息を吐けばゴポゴポと小さな気泡は私が呼び出した水帝の外に逃れるように上っていった。




『_____』



パンッと水が、霊へと襲い掛かった。
ぶつかった場所から消えていく。

断末魔。
でもね、君はここにいちゃいけないんだ。


この呪術が「あれ」ならば、ここは小さな壺の中。
私と君は最期の蟲。

外に出て自由になりたかったでしょう?




今、自由にしてあげるから
.



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