011

瞳閉じれば見えてくる。
魂が近くにあるからだろうか。想いをそばに感じるからだろうか。
ゆっくりと瞳を開けば越前君の後ろ…そこにもやっとした影と、そしてだんだんとそれは具現化して、一人の小さな男の子になる。

僕・・は・・・
『君は?』
もうだめって、言われたんだ・・・

つぅッと彼の瞳から涙があふれた。それは越前君に影響して、何回も、何回も、陣の上に雫がにじむ
彼はないている。
心が、思いが、彼が

『うん』
僕はね、・・・運動が好きだった。でも、病気になって

ドサリ、っとその場に崩れ落ちたのは、越前君だった。まるで人形の糸が切れたように、転がる。

「越前!?」
『桃城君!!』

それを見た桃城君が陣の中から越前君を引っ張り出した。眉間にしわを寄せたまま越前君を見ていたが、部屋が暗くあまり確認できないものの、越前君がただ気絶してるだけだと気がついて安堵のため息をつく。

私もそれにほっとしつつ、私は具現化した「彼」を見つめた。
黒髪のボーイズショート。運動が好きだ。ということが目に見えるような子だった。
そう、けれど残酷なほどに…彼の、左腕はない。あるはずの左腕。今はないその場所に、私は瞳を細めた。ユラリ、とゆれたのだろうか、少年は下を向く

羨ましかったんだ・・・っ

聞こえる、悲しみの嘆きだ。小さい子にはよくあること、

『うん、だからって人のものをとるのはいけないよ。君はもう分かるよね?』

コクリ、っと私の言葉に頷いて、じっと私を見た。また一つ涙がこぼれる。
ぽろぽろ、ぽろぽろ、止まらない。ゆっくりと陣のぎりぎりまで近づいて、そっと少年を撫でた

「おっおい!」

それに反応したのは桃城君で、私は振り返り微笑む。そうすれば、彼は眼を見開いた
『大丈夫』と、口パクで言ってまた少年を見つめる

『君はもう死んでるんだ。私は神様じゃないから、君を生き返らすなんて芸当は出来ない。でもね』

そして、陣の中に入って優しく少年に触れてから、抱きしめた。
人の暖かさはないけれど、実体にはないけれど、私には見える、聞こえるよ

『君は、めぐる。新しい生を受けて、輪廻を廻り、また生まれ変わる。人に終りなんて、ない。記憶はないだけで、君にはいくつもの長い人生があるんだよ』

小さく、私の築いた道を述べた。静かに、少年が私の背に手を回す

僕、も・・・?また、みんなとサッカーできるかな・・・?
『できるよ、君が望めば、』

フッと回りに散らばっていた数珠が光を放つ。それは光になり、そして、紋章を空中に描き出した

お兄ちゃんが言ったことは嘘なんだね
『え?何が・・・』
あのね、人に取り付けば、僕がその人に成り代われて、また「僕」になれるって
『それは・・・』
僕、分かってたんだ、こんなことしたって、もう僕は取り返せないなんて、ごめんね、お姉ちゃん。ありがと、

すぅ
少年が光に変わる

『・・・隆一・・・?』

そして、小さく、名を紡いだ。それは、一瞬だけ見えた過去、否、未来かもしれない。「隆一」と呼ばれた彼が、別の少年と楽しそうに遊んでる風景だった
ドサリ、力が抜けて思わずその場にへたり込む。後ろで驚いたような桃城君の声が聞こえたが、ごめん、かえす気力がない
疲れたって言うか・・・
なんていうか・・・初めてだったな・・・

『(お兄ちゃんに言われて…か)』

いったい誰がどんな入れ知恵をしたんだが・・・

たとえ、成り代われても、どうせその人物にもなれない、己にもなれない。ただ、中途半端な思いをして、そして、自分に失望して、それをくりかえすだけだ
私は死を、知っている

「おい、大丈夫か?」
『あ・・・うん・・・少し・・・疲れただけだから平気だよ・・・』

軽く肩がゆすられる、
かけられた言葉に静かにため息と微笑を含めて返して、立ち上がる

『桃城君、越前君、連れてきてくれるかな、』
「おっおう。」
『桃城君にも、渡さなきゃいけないものあるから・・・』

荷物の中に入っていたはずだ。私がちゃんと入れたのならば。
記憶って曖昧だな。
何て思って障子に張った札をはがして、障子を開ける。

『リビングにソファーあったでしょ?そこに寝かせておいて。私はとってくるものがあるから』

そう言って私は己の荷物があるであろう二階へと歩き出した


チリン


『兄さん・・・』

尻尾を揺らして私の足に擦りつく彼に少しだけ、いや、確実に私の緊張は解かれていった



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