010

暫くそこでテニスを見てたけれど、少ししてから近くのベンチでボーっとしていた。彼らが多分ミーティングかなんかで部室に行ってしまったから私=暇なわけ。

まぁ、桃城君が来ればあんまり問題ないけれど、せめてケー番聞いておくんだった
それかメアドか、えっとらいんってやつ?そうすればここで待っているってことが言えたのに

まぁ、別にいいけどね。帰ってもやることはお経読んだりするだけだし

『ね、兄さん』

同意を求めるように傍らで丸くなり眠っている黒猫に言う。ぱたぱたっと尻尾を振るあたり、私の言いたいことが分かったんだろう。本当、頭が上がらない。

「モニカ?」

しばらく彼を撫でていた私に声がかかる。キョトンッとして顔を上げればそこには自転車を押し、驚いた様子の桃城君と後ろにコートと違って帽子を被っていないが、あの少年が居た。じっと、その後ろから「彼」が私を見ている
だから私は目を細めた。

「わっ悪い、待ってるなんて思わなくってよ」
『いいよ。私が勝手に待ってただけだからね?それより、話し聞かせてもらってもいい?』
「あっあぁ」

謝られたけれど、でも私が勝手にやったことで、大丈夫、という意味を込めてそう返してきけば、私の言葉にはっとして、ちらりっと後ろの彼を見た
それから私に向き直ると

「その、よ、昔のこと掘り返すの許してくれっか?」

そう私に聞いた。やっぱり、そういうことなんだね

再び彼に視線を向ければ、明らかにおかしい。顔色は真っ青で、何より瞳に生気は宿っていないし。さっきの練習を見ていたからだろうか、彼はうまく身体を動かせていないんだと思う。後ろに居る「彼」のせいで

『いいよ、私は大丈夫だから、』

立ち上がってパンパンッと服を叩く。その音にパタパタッ耳を震わせて頭を上げる兄さん。そんな彼を撫でつつ『私の家、行こうか』とそう言って微笑んだ
ついでに道案内してもらう。だって今日は神奈川から直で来てわかんないんだよね
荷物は全部こっちに届けたつってたけど。


「この住所だと、ここらへんだぜ?」

学校から約15分ぐらいの距離で桃城君がそういった。
きょろきょろと周りを見渡せば、「龍ヶ崎家」という表札があり確かに桃城君の方向感覚は正しかったから、ありがたい。

それに桃城君が「へぇ、結構ちけぇんだな」と言葉を漏らした。この辺なんだ、桃城君

なんて思いながらポケットから鍵を出す。そして玄関の鍵穴にさせば、かちゃりっという音がして扉が開いた。

『どうぞ、多分まだ散らかってるけど』
「お、悪い。越前、行くぞ」

扉をあけて、二人に言う。
けれど、私の言葉にも、桃城君の言葉にもかければ、越前君は反応しない

「越前?」
『・・・桃城君、多分、ここに入るのがいやなんだと思うよ。なんたって、』

結界が張ってあるからね。そういえば、桃城君は目を見開いた。

『まっ無理にでも入れるけど、入ってまっすぐ行けばリビングだから、越前君を運んでね、私はまだ準備があるから』

でも、そんな彼を無視して私はそういい、先に家の中に入った。向かうのは、設計どおりならリビングの隣の障子の部屋
確か、

『よかった、そろってるね。』

私の仕事道具がそろっているはずだ

『桃城君、準備できたよ。』
「おう・・・ってお前なんだその格好は!?」

それから一通り陣を書いた私は仕事着に着替えてからリビングで待機していた桃城君を呼んだ。桃城君は最初私を見てなくて、でも顔を上げ私を視界に移して驚いている。
私の今の格好は巫女服とか、そんなんじゃない。巫女服なんて動きづらいだけ、だから修行のときに着るだけだし、それに、私の場合、たまに県外に出張して仕事をするときがあるからそんな目立つ服は着れない

しいて言うなら着物ブラウスっていうのが一番近いかもしれないけれど、そこまで帯を凝っているわけではないからなんて言えばいいんだろう。

まぁ、真っ黒だから…巫女ってより、エクソシスト(悪魔祓い)に近いと思うけど

『えっと、彼、越前君だっけ。彼の様子は?』

なんて、私の格好の説明はいいよね。。
それから姿の見えないちびっ子(私もあんまり言えないけど)のことを聞けば、桃城君は眉間に皺を寄せて、ツイっと位置的に部屋の隅を示した。

「入ったらあの調子だって。」
『あぁ、』

桃城君の横まで歩いて部屋の隅を見ればそこには膝に顔を埋め、うずくまる越前君の姿
相当きついんだろう、この空間が…

丁度、こっちに戻ってくる前の最後の仕事
京都での仕事で、そのとき、本当に偶然別の仕事で居合わせた従兄弟に会ったとき、成り行きでお互いの仕事を手伝うことになって、「モニカの張る結界って強力だね、」と言われたのはまだ記憶に新しい。
まぁ、それはよこしまな感情を持つものにとっては毒としかなりえない。

『とりあえず、あまり帰りが遅くなると親御さんも心配すると思うから、この隣の部屋に越前君連れて行ってくれる?多分、暴れると思うけど、そこは実力行使でよろしく、』

「お、おう」

でも、彼から「彼」を引きずり出さないと、そのうち生気をすわれて目の前の彼は亡き人となってしまうかもしれない
それに、あまり長く「彼」を現世にとどめておけば「彼」にとっても悪影響だ。彼は怨霊となってしまうだろう。

そうなったら強制的に堕とすしかないから、桃城君が越前君の手を引く
それに、越前君はあまり抵抗せずただうめくように声を小さく発していた。先にリビングを出て、カーテンで隠してある扉を表し障子を開く。

『この部屋。』

それから振り返って桃城君に言った。そうすれば、「おう」と桃城君は私に返事をしそして越前君と入ろうとした

・・・だ
「?」
『!桃城君、早く突っ込んで!』

そんな時、聞こえた…私の耳に届いた声。急いで桃城君と越前君を中に突き飛ばし、そして同時に私も中に入り障子を閉めてそれから札を貼った。

桃城君は意味の分からないって顔をしてるけど、越前君を連れてきたとき繋いでいた手は離してる。それだけは幸運だと思うが、それよりも、

『・・・』

いろいろと、まずいかもしれない
私には修行でいろいろとやったから耐性があるが、桃城君は直に見ることはまずないだろうことだ。

でも、今、彼をここから出せば同時に越前君に憑いてしまっている「彼」が逃げる可能性がある。捨てきれない可能性は、0にするのが私のアイアンティディだ。

『桃城君。これ飲んで。』
「ん?」
『ただ、念をこめた水だけど、何もないよりましだから、それから出来るだけ、その陣に入らないで、』

だから、せめて、
桃城君は、二度と巻き込みたくなかったけれど、でも、守りたいと思ったから

クルリ、っと身をひるがえせば、陣の中でうずくまっている越前君の姿
後ろでゴクっという音が聞こえたから多分念をこめた水を・・・聖水を彼は飲んだんだろう
彼は一時的に霊に取り憑かれ難くなったわけだ。
まぁ、こんなことしか出来ないけれど

ジャッと首に掛かっている数珠を外し、クロスさせ、眼下に広げる。
それから力の限り引っ張れば、糸が切れ、部屋のいたるところに転がった

『越前君から出て行って。君はもう、この世界に居る意味はないでしょ?』

それから問う。
薄く、数珠が光を放ち始めた

・・・だ・・やだ・・・
『うん、何が嫌なの?』

小さく聞こえた言葉。
だから私はもう一度聞いた。
描いた陣のギリギリの位置に立って、座り、そして彼を見つめる。

そうすれば、よどんだ越前君の瞳と視線が合った

僕・・・もう・・・でき・・みん、うば・・う
『何が出来ないの?』

何度どでも、問うよ。それが君の願いなのだから。
死した魂は何時だって、心の安らぎを探してさまよっているんだからね


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