005
保健室は静かな空間。まるで、隔離されたみたいに、静か。
ジャリ、っと静かな空間にはわずかな音さえも響く。
それが心地よく、不気味だった。
所詮、私は低級の幽霊しか払えない。己についた悪霊やその他の部類は兄さんがいなくちゃ払えない。弱虫。
そう、私は弱虫。友達すらも、守れないなんて笑いもの。
ううん、違う、桃城君にとって私は友達じゃなくてただのクラスメートでしかないのかもしれない。それでも、いいと思っている。
『ねぇ、どうして君は私を追うの?どうして桃城君に?』
【・・・】
『おねがい、私の言葉を聞いて?』
でも、私は霊の思いまで知ることは出来ない。言葉を聞いて、悩みやこの場に残っている理由を聞いて、それを叶えて、成仏させることしか出来ない
だから自縛霊とか、相当強力な悪霊なんて、自分が逆に憑かれて終り。本当、バカみたいだけど、でも、その後兄さんが払ってくれると思えばいいかな、って思う私も相当だ…。
【・・・しい】
『ん?』
【ほしいほしいホシイほしいほしいほしいホシイほしいほしいホシイほしい!!!!】
ドロッと、嫌なかんじが体中を這った。
吐き気が襲う。けれど…
【!モニカ、下がれ!!】
『!!』
さっきまで、桃城君の私が立っていた反対側のベットサイドに居たのに、私の目の前に本当に目の前に居て…
片目がない。あるはずの場所には空洞が広がっていた。にやぁっと笑った口からは、どろりっと血が流れ、私の制服を濡らす。普通の人には見えないそれを、私が見えてしまうから、今の私は血だらけだった。首元に手を添えられて、体がびくつく。
やだ、いやだ、気持ち悪いっ
【わたシだって生きタかッた】
ねぇ、なんで殺したの?
殺したの?殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した。
殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、
永遠と流れる悲しみの声色。
でも、不思議と彼女はまだ私の首を絞めてなかった。
『うん、生きたかったよね』
私はそっと、彼女に触れる。実体はないはずなのに、私は触れられる。私は普通じゃないから。すぅっと目を細めて私は見つめた。
空洞の目は何を映すのだろうか、何も映していないのだろうか…それでも…
『ごめんね、でも私はどうしようもないんだ。君の事は見えても、君を生き返らすことはできない。私は神様じゃないから。』
小さく、言葉を紡いでいく。私には、こうするしかないんだ。
彼女を納得させて、楽にさせることしか、私には、できない。
『もう、君はここにいるべきじゃないよ。居るべき場所に還りなよ・・・』
私には、力なんてないのだから・・・
だから、聞いて、叶えて、眠らせてあげるだけ
【かえ・・・る】
『うん』
【・・・・だ】
ギリ
首を襲ったのは圧迫感。
思わず目を見開いてしまった。
【ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ】
首が絞まる。空気が詰まる。
私の瞳を覗き込むように、空洞が広がる。
ドクリ、ドクリと、嫌な音と、違和感が体中を支配する。
空気が抜けない、吸えない。
【ちょうだい、お姉ちゃんの体、ちょうだいっあそぼ、あそぼっ私と、あそぼッ!!】
ぎりぎりとだんだんと力が強くなっていった。
彼女を引きはがそうとした手に力が入らなくなって、空洞が、黒に染まっていく。
【ふざけるのもたいがいにしろ】
でも、瞬間兄さんの声が聞こえて、フッと首にこめられていた力が弱まり、ぐらりとその場に倒れこんでしまった。いきなり流れてくる空気にヒュッと喉がなりゲホっと咳き込む。急き込んでる間にも、目の前が霞むがぐいっと拭って、私は見上げた。
そこには長い髪をつかまれて、ギャーギャー暴れてる彼女と結界を打ち破ってまで入ってきた兄さん。
『に・・・ぃ・・』
まだ、息が整ってすらなくて、彼を呼ぶことすらまともにできなかったけれど。
私の位置からじゃ兄さんの表情は見えない。でも、怖いと思った。恐いと、思った
【ヤダヤダヤダヤダッ離セ!! 離せ!!】
【まったく、コレだから低級はめんどくさいな。さっさと消えろ。】
ジュッと嫌な音が、肉と血と、髪の毛と、なんかいろいろ焼けるにおい。
もともと、兄さんは霊力が強かった。私はまだ、力がはっきりしていないけれど、
兄さんには「火」という力が宿っていた。今も、それは健在で。
でも、私は嫌い。
火は、すべてを灰にしてしまうから…ないものにしてしまうから。
だから、私は出来れば別の力がいい。
悪霊でも、自縛霊でも、やすらかに、眠ってほしいから。
こんな私は偽善者でしょうか・・・?
【ほら、もう大丈夫だよモニカ。】
笑顔でそういう兄さんは先ほどのことをなかった方に、笑った
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