04

『ユウ、こっち!!』
「おい!!」

そこからのエミの行動は早かった。そばにおいてあったケースを腰にさし、テーブルの上のソレをとると唖然とするユウの手をとって扉を蹴破って階段をかけ降りる。

『ルネさん!!!あっ!!』

かけ降りた先にいるはずの家主であるサポーターの名を叫んだ。
それはここから逃がすためだ。ただの人であるサポーターは奇襲を仕掛けてきたAKUMAには対抗できない。
けれど…そこには人はいなかった。

『っ…』

紫色に変色した石のような人の像がこちらに手をのばしている。絶望と恐怖に歪んだ顔にエミとユウの表情が歪んだ。

ぱきっと乾いた音とともに伸ばされていた手が砕けて床におちた。
反動で足がおれて床に体が落ちて砕けた。
砕けて、さらさらと砂になって、そこにはなにもなくなっていた。

ーー遅かった

そうエミが思ったとき彼女の手が引かれる。振りかえればそこにあった物、今はなにも無くなってしまった床を見つめて「なんだ…今の…」と乾いた声を漏らすユウがいる。
彼は守らなくてはいけない。

『AKUMAの血のウイルスにやられたの、早く元帥と合流しなくちゃ』

叫ぶようにそう告げたのだが、あいにくと今彼がどこにいるのかわからないのだ。きっとこうなることをお互いに予想なんてしていなかった。

「みぃつけたぁ…」

けれど確実にこの場所はAKUMAに知られてしまっている。早く彼だけでも逃がさねばと扉に手をかけた瞬間後ろから聞こえた声にエミの背筋は凍った。

『っ』

扉を開け放ち、腰に差したケースから扇を抜き開く。ソレと同時にひらりと落ちた羽

『イノセンスーーー 追奏 迷走のカノン』

囁くように、唱えたその言葉に開いた扇が緑色の光を纏い、強い風が取り巻いて、二人の手が離れた。

「エミ!?」

驚いた彼の声に、エミは頭上へ舞い上がり彼をのせた羽の船に向けてえむ。

『安心して!君は守るから!』

もう聞こえないかもしれないけど聞こえることを祈って叫んだ。
少年は未覚醒のエクソシストだ。不安定なイノセンスでは負担にしかならない発動をさせるほど、彼女は弱くはなかった。パタパタっと彼女のそばを飛んだ黒いゴーレムにエミは笑んで「このことを元帥に」とそういえばゴーレムも羽が飛んでいった方へと羽ばたいていった。

『…AKUMAは逃がす気なんてかけらもないけどね。』

それを見届けて、振り返る。彼女の後ろには大量の卵型のAKUMA…レベル1が浮いていた。
手元で扇を構えて息を吐く。

『イノセンス-----発動』

----竜宮舞姫
ぶわりと風を纏えば片手に収まっていた扇が彼女の身の丈ほどもありそうな巨大なものへと変わる。
ざっと片足を引いて両手で端を持ち顔を上げた。足元に向かって風を巻き起こし、体が宙を舞う。
彼女に向かってあわせられた照準と、打ちこまれるAKUMAの銃弾。
それを開ききった扇で防御して、そうして身を回転させて

『そぉおおおおれ!!!!!!!!!!!!!!』

横に扇を薙ぐ。
そうすれば強い風が巻き起こりAKUMA同士がぶつかり合い爆発を起こした。

けれど、そう、本当の敵はこれだけじゃないと彼女はわかっていた。
ぴりぴりとした殺意をその爆発で起こった煙の中で感じる。

「へぇそれがイノセンス…ノア様が集めているもの…」 

卵型ではなく、自我をもち、言の葉を話すそれを彼女はにらみつけた。
煙が晴れてくれば現れるその物体は彼女たちの中で言う、レベルU。レベルTとは比べ物にならないくらいの戦闘力を持つ。
それは自我を持ってるが故「考える」力をつけたからだ。
一筋縄で行かないことはエミは重々承知していた。承知していたが、その場を逃げるという考えにはたどり着かなかった

『…悲しい夢はもう終りにしてあげる』

せめても、元帥とユウが合流するまで時間稼ぎを…ただ、彼女が思っていたのはそれだけだった。
巨大化させた扇を己が動きやすい大きさまで小さくし、体の回転を利用して斬りかかる。
距離をとられるがそれは作戦のうちだった

『…昇華----三重奏』

黒い瞳がわずかに色を失う。
表情が微妙にゆがんだがそれに気がついたものはいないだろう。

『散り乱れよ… 桜花!!!!』

叫び。
ブワリと雪と彼女のイノセンスが巻き起こした風に桜の花びらが散る。

『百花桜蘭!!!!!』

薙ぎ。
風が巻き起これば雪と一緒に花びらがAKUMAを襲った。

「ど・・じで・・・い”の”・・・ぜん”ず・・

 ごろ”じだいごろ”じだいごろ”じだいごろ”じだいごろ”じだいごろ”じだいごろ”じだいごろ”じだい
『!!』

不気味な目玉が揺れて、体を風に沿わせるように回った動きにより花弁は剥がれ落ちていく。そしてぎょろりと、その目玉が確実に、彼女を写した。

「殺してやる!!!エグゾジズド!!!」
『!!!』


鋭利な腕を振りかざされる。
振り切ったその形から、すぐには動けない。
ーーーー殺される
一瞬。ほんの一瞬、そう思った瞬間

「楽園の彫刻(メーカーオブエデン)!」

それは白い植物の蔦に捕らえられた。
「エミ!」と彼女を呼ぶ声に『はい!!!』と散った意識を集中させて声を張り上げた。
キインと小さな耳鳴りのその音と、一つ息を吐いたエミの手に走る光。

『昇華!!!四重奏!!!! カマイタチ!!!!!!!』

淡い緑を纏っていた扇が薄い赤に変わる。蔦にとらえられたAKUMAめがけて思い切り振り薙げば暴風を呼んだ。
AKUMAの叫びと風の音だけがその場を支配して-------





風は雲さえも振り払ってしまったらしい。
AKUMAのガスの影響でか曇っていた空が晴れて月の光を取り戻す。
そこにはぽつんと、エミが一人立っているだけ。

『…Have a good sleep tonight…』

何もなくなったその場に、ぽつりとエミはつぶやいた、
先ほどまでの殺意も何もない。
手にしていたイノセンスが元の形状へと戻れば緊張の糸が切れたのか、ぐらりと体が傾いた。

そんな彼女を受け止めたのは、眉間に皺を寄せた「ユウ」と名乗った少年だった。


***




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