02

ーーその日は酷く寒い日だったのを覚えている。
雪山の中で見つけてきたボロボロの少年を連れて少女たちはとある家にいた。


「特に怪我はないね」
『良かった……』


黒い服に身を包んだ二人はすやすやとベットで眠る少年を見て安心したようにため息をこぼす。
少年を発見したこの少女は特にだ。



19世紀ーーー

世界は歴史の裏で書物には載らない争いを繰り返していた。
既に100年以上も続くこの戦いは、旧約聖書に登場するノアの一族と神の結晶『イノセンス』に魅入られたものたちの鼬ごっこのような戦争だ。


黒の教団と呼ばれる組織に属し、イノセンスを掲げノアの一族と戦う者たちを総称して『エクソシスト』と呼び、その胸にはローズクロスが輝く。

それは少女ーエミーもそうであるし、その傍らにいる男ーフロワ-ティエドールーもその一人だ。
ただ彼は元帥と呼ばれるエクソシストのまとめ役なようなものである。ただし、本人にその自覚はない。



『元帥、この子は…』
「U(セカンド)だね… 皮肉な運命だ」


あぁ,やっぱりなんて…そう彼女が思ってしまったのはきっと仕方がないことなのだろう。心底大切そうに少年が抱えていた異形の刀。それこそが彼にもたらされた神の結晶なのだとすぐに彼女は理解した。けれどあまりにも歪でボロボロで、彼の体に刻まれは梵字がたしかな証拠で、


『父さん…』
「なんだい?」


元帥ではなく、そうティエドールのことをよべば、彼は優しく彼女の黒髪をなでる。
そう呼ぶときは決まって不安になっている証拠なのだ。血は繋がっていなくとも、長く付き合っているからこそわかる


『アジア第六研究所に電話していいですか?』


心底不安そうに告げた少女に、「あぁ、いいよ」とティエドールは安心させるようにまた頭を撫でたのだ。





その計画は第二使徒(セカンドエクソシスト)計画と呼ばれていた。
激化する戦争。エクソシストの人数維持のため約90年前にはじめられた計画であり、エクソシストの脳の一部を取り出し、人工で人間を作り出して適合者にする非人道的な研究。

人造人間は兵器であり、その胸に刻まれた梵字は呪い。
普通の何十倍もの早さで怪我を治す代わりにそれは命を削っていく。


そうして彼らは産み出されたのだ。

望んですらいないのに





『壊滅した…?』
「…あぁ」


本来ならばかかるはずもないだろうその本部への連絡がつくのは彼女がティエドールの愛弟子だからだろう。
その電話の奥の人物の声は酷く沈みきってしまっている。


「俺は、何もできなかった。止められなかったんだ、」


悲痛な叫びを耳にして、エミはきゅっと唇を噛んだ。東洋系であるエミはアジア支部で世話になったことがある。特にイノセンスでの戦いかたの基礎を叩き込まれたのはかの守護神だ。

だからこそ、少し不安になってそれが的中してしまったのだ。


『バクさん。そんなことない。』
「っ」
『あなたが今、そこで生きて現実を受け止めてくれているなら、もう過ちはきっと起きないもの』


口に出す言葉は酷く大人びていた。
電話越しの嗚咽を聞いて、そっとエミは目を閉じる。

喪ってしまったものを甦らすことはできないとしっているからこそ


『(ご冥福をお祈りします。           )』


心の中でそう呟いて。



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