02

***Side Yu

 俺を迎えたのは変わらない景色だった。
白い部屋に眠ったままの白い姿。相変わらずその瞳を瞼でおおったまま規則正しい呼吸を繰り返すだけの。


「…んだよ…寝坊助。まだ起きてなかったのか」


吐き出したのは、呆れだ。近づいても起きる気配もない。
そっと頭を撫でて、髪をすくえば白い髪がさらさらと流れていった。まるで、雪のようだとおもったが、実際そうなってしまっては困る。


「…外の森で待ってる…この声が聞こえたんなら来い」


雪のように溶けてしまっては、彼女とは一緒にいることはできない。
額に一つ口づけをおとして、身をひるがえした。












「…やっぱさみぃな。」


 夜空を見上げてひとつつぶやいた。っつても雲に隠れて何にも見えねぇが、任務にでていた格好のままだからいつもよりは厚手で温かくはある。
いつも鍛錬で使っているその森はかつて、最後に彼女が俺に気が付かず、言葉を残していった場所だった。
時間を確認するために、懐から懐中時計を取りだせば、随分と時間が立つのは早いらしい。すでに針は58分を差していた。
もう間もなく、日付が変わる。


「眠ってるあいつに勝手に言ったことだ…聞こえてるわけねぇ…」


自虐だが、仕方ない。間違いないことだ。眠っている人間に告げること自体がおかしいだろう。空しくなるが、少しでもと願ったから起こした行動だった。

あぁ、戻るかと…
座っていた切り株から立ち上がって振り返れば、ふわりと


「…は?」
『あら、残念。驚かそうと思ったのに。』


白いワンピースを纏い、くすくすと笑いながら、彼女はそこにいた。
ふわりと吹いた風が彼女の白い髪を揺らす。
自然に足が彼女のもとへと行けば。静かに開かれた淡いブルーの瞳が俺をまっすぐに映して微笑んだ。


『おかえりなさい、ユウ』


告げられた言葉に、息を飲む。じわりと目の奥が熱を持ち、それが悔しくて彼女の体をだきしめた。
いつの間にか俺のほうがずいぶんとでかくなり、彼女の体は細くひどく心もとないと思ったのは、おそらくそれこそ、残量の問題なんだろう。


「…くそ、冷たくなってんじゃねぇか。」
『寝起きだもの、許して。』
「ふざけんな。」


団服を脱いで、着させる。
先ほどまでの消えそうな白はなく、しっかりとそこに立っている姿に、安堵してしまったのは本当に溶けてしまいそうだったからだ。


「…ほんとに、エミか…?」


告げた言葉に、一つぱちりと瞬きへらりと力なく微笑んだ。
あぁ、かわんねぇと思ったが、『ただいま』とはっきりと聞こえた言葉に、固まってしまう。固まってしまうが、改めてその華奢な体を抱きしめる。
ずっと眠っていたから随分とほそくなってしまったが、それでも、今も生きている。


「何で今まで黙ってたんだよ」


あぁ、だが、この細く小さな体に俺と同じ業を背負わされていた。不思議そうに首をかしげたようだが、少し考えて、苦笑いをこぼした。
少しの間。それから俺を見上げてまっすぐに瞳を見つめてくる。


『私が成功しなきゃ、ユウたちはもっと早く自由になれてたかもしれない。それに私の残量はユウよりずっと少ないの。』
「…それ以上言うとふさぐぞ。」


何でとは言わない。
けれど、それを拒むようにするりと俺の腕の中からすり抜ければ、少し離れて森の方向へと歩いていく。そのエミの背に手を伸ばしたが、またするりとすり抜けて振り返った。



『…ユウ……これはちゃんと言わなくちゃいけないの…私はユウたちが造られる前に生まれたの。ユウが目覚める…確か…3年前ぐらい。』




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