06

すたすたと暗い森の中を元の世界に戻るために歩いていく。だいたいこういうときはもれなく外に戻れないのは大体予想がつくけれどそれでもでもあそこにいるよりもだいぶましだ。

ミカゲさんは第一にヒトのようだった。それは土地神だからヒトに見えたのだったのか…。

いまさらで、わからないけれど…でもその可能性が一番近いかもしれない。ヒノエや野狐…それに今まであった妖怪は姿はどうであれヒト型が多かったからいけなかったんだな…。慣れ親しみすぎた。

いつも騙されるのになぁ…とはおもうんだが…

走って走って、そろそろいいかと足を止める。やっぱり一人は心細い。

だからこそ早く帰ろう。にゃんこ先生のところに…。


「もし、お嬢さん」


そう考えて足を早く動かしていたら、突然かけられた声。こんな場所に人が、と振り返ってみれば大きな荷物を持ったおばあさんが私を見てる。なぜ、こんなところにヒトが…と警戒を濃くしてしまったのは仕方ないだろう。

ここへ来ながら鬼切たちに聞いた話、人も迷い込んでしまうという。

私は自分の意思で入ってきたがこのおばあさんは違うだろう。大きな荷物を持って、さぞ不安だっただろう。


「お嬢さん、助けてくれないか」


手を貸してくれないかと、助けを求められ、断るのが苦手な私にとってそれは残酷なようなもので…。いや、たすけるけど…


『おばあさんなんでこんなところに…』


近寄っていけばやっぱりヒトで…その細い体には不似合いな大きな荷物を背負っていて、疑問には感じるが見た目よりも軽いのだろうか…なんて思ってしまう。手を差し伸べるのは、半分癖のようなものなんだろう。
とりあえず、座り込んでいるおばあさんの背負っていた荷物を持って立ち上がらせれば、やっぱり思ったよりも荷物は軽くておばあさんが持っていたように背に背負う形で背負えば思ったより軽く感じた。


「じいさんに弁当を持っていこうとしたら突然熊におそわれてねぇ…難儀していたんだよ」
『熊…』


はて、熊なんているんだろうか。
向こうならまだしも…都会な元の世界に、いない気はするんだがもしかしたらいろんな場所から妖の子の世界につながっていると考えれば熊が出てもおかしくはない…とは思う。


「いやはや、お前さんのような優しい娘に会えてよかった、」


おかげで寿命がまた延びる。

ずしりと荷物が重くなる。横から銀色が光る。白が散っていく。

ぞっと体を巻き込んでいくのは殺気のようなそれであり。あぁ、また失敗したな。なんてあきれてしまう。


「食ろうてやろう、土地神の娘」


ゾクリとする。あぁ、結局妖は人を喰うんだななんて思ってしまうのは頭の中で変なことだけを考えるからか。

銀が迫る。
荷物が邪魔でうまく動けない。


《《リナ様ーーー!!》》


二人の声、同時に背が軽くなり、まとわりついていた白と殺気が消える。

次いで私の背を虎徹が、手を鬼切がひっぱって走りだす。二人ともいつから私のそばにいたのか、考えてはいなかったが彼らは妖のように空を飛べるからすぐにでも追いつくだろう。


《あれは鬼婆にございます!!》
《リナ様、巴衛殿に助けを呼びましょうっ》
『イヤだっ!』


でも、走りながらそう言われてしまえば私には否定の言葉しか出てこない。
これ以上妖に借りを作るのはいやなのだ。

背後から鬼婆といわれいてる妖の叫びと足音が聞こえるがそんなことはどうでもいい。

さっき絡んできた妖たちに紙人形はつかってしまったし、友人帳から誰かを呼ぶ時間も場所もない。第一ここはヒトの世ではないから来てくれるかもわからない。

走って走って、息が切れる。
背を押していた虎徹がいつの間にかきえていて、鬼婆の足音が一瞬止まったがまさか妖同士で共食いはしないだろう。そんな変な安心感と、自分に降りかかっている災難に頭がこんがらがる。


《今、虎徹が巴衛殿を呼びに走っておりますればっ》
『あの様子じゃ、ここに戻ってくるまでに時間がかかるだろう。何か使えるものを探す方が早い』


肺がいたい。昔よりも体力はずっとあるはずなのに、こんなにも苦しいのは、きっとここの気のせいだろう。人の世界じゃないここは私が息をするには苦しい場所。


《リナ様、白札をお使いくださいませっ!》
『っ白札?』
《土地神様の能力の一つです。この札に文字を書き対象物に張れば文字が力を持ちその通りになりまする》


鬼切が横からそう言葉を叫ぶ。
持っているのは三枚の真っ白な札と一本の筆で、奪い取るようにそれを受け取ればやっぱり真っ白で…走りながら筆で文字を書く、なんてどんな所業だ。

さらっと書いたのは「私の名」で、近くに転がっていた太い木の枝に貼り付けてさらに走る。
後ろから叫びのような声が聞こえて、足音も聞こえなくなったから、目くらましにはなったんだろう。運がいい。


『(でも、長くは続くわけじゃない…っ!)』
《リナ様っどうか巴衛殿に助けをっ》
『ぜったいにイヤだっ!』


妖にこれ以上借りを作りたくなんてない。
あの男に助けを求めるくらいなら…っ


『(先生…っ)』


どうせ、先生からは後あと文句をたくさん言われるだろう。無理やり藤原家へと連れて帰るといわれるかもしれない。

それでも…私の今頼れるのは、

文字をつづった紙はふわりと光に包まれて消えてしまって、あぁ、届いただろうか…なんて。

息が切れてグラグラする頭で考えるしかなかった。


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