03



目の前に広がる光景に口元がひきつるのは仕方ない。いや、うっすら街並みが変わったからいやな予感はしていたさ。長い階段の先に鳥居が見え、そして上がりきれば見えたのは社。

…それはよかったがまるで廃神社というべきだろうか…ボロボロな…いや、夜だから余計そう見えるかもしれないが…

ここに住めと?さすがに無理だ。


『(まぁ、そんなもんだよな)』


おそらく、おそらくだが狐か何かに私は騙されたのだ。よかった。周りに人がいなくて…。

少し寒いが風がしのげればいいや。なんて考えてしまう私も私だが、一応礼として鳥居の前で一礼。で、鳥居の隅を通って中に入る。

ただ、中に入って思うのは思ったよりも境内はきれいだ。ところどころ落ち葉はおちているが毎日掃除されている証ともいえよう。

変なところを見てしまうのはきっと田沼の家を見ていたからかもしれない。あそこも神社だったから。


《ミカゲさま》


足が止まる。
聞こえてきたのは確かにその声だ。
小さな子供のような声。


《お帰りなさいませ、ミカゲさま》


確かにそういっている。
「ミケゲ」というのはさっきあの人が言っていた名だ。その名を出せば彼らは迎え入れてくれるといっていた。

あぁ、失敗したな…。


『(足を止めなけばよかった。)』


最近妖にかかわっていなかったから仕方がないのかもしれないが、対処法はわかる。念のためにとポケットに入れている札に手を伸ばす
が、その前に、背後で業火、


『っ!!!』


驚いて振り返ってしまったが、木々に乗り移らないのを見ると、どうやら本物の火じゃない。思いつくのは、狐火
でも、こんな大きなもの…

たぶん、今札を投げてももれなく燃えて終わってしまうだろう、ならば逃げるが勝ち、

ぐるりっと身をひるがえして走る。
境内の中ならばあまり相手も動けないはずだと、そう考えていたが火は追ってくる。


『(くそ…っ)』


石畳を走って行くのだがどこか誘導されている気もする。あぁ、くそ


『歩いてかえればよかった…!』


口に出したのは負けおしみだ。追い詰められて追い詰められて、しまいには社の前。
背後にしてしまったが、背にそれらしい気配はない。

…そう思ったのに


「ミカゲか…」


背後から幼子たちとは違う、声。
何かを孕んだ声に、体が固まってしまう。社の中へと、引きずりこまれる。強い勢いでその奥の壁まで叩きつけられるように。

背中を強打したが、今恐ろしいのは入口から見えるその月明かりに照らされる、影。逆光になって見えないその姿


「今までどこへ行っていた…20年間も俺に留守番をさせておいて」


目に見えない、距離を瞬間で縮めて来たそれは、的確に私の喉に爪が

パシ!!!


『っ!!』


手に持っていてよかったと思ってしまった、その札を目の前の迫ってきた影に貼り付ける。
私の妖力ごとき、はじき返せるものではないが、止めることはできるだろう。
喉、少し手前。
本気で殺しに来たぞ…ミカゲさん一体あなたは何をこの人にやったというんだ。


「っ何をする!!」
『それはこっちのセリフだ!!!』


ベリっと勢いよく札をはがした彼と目があう怒りに満ちた目だが、きれいな紫色の瞳だ。私をしっかりとみると「ミカゲではない…」と少し、すねた子供のように言ったのは気のせいではないだろう。

一瞬、レイコと呼ばれることを恐れてしまった私はホッとするばかりだだが、一方で私のことを追い回した炎が二つ。ブワリとかれの近くで瞬いたかと思ったらひょっとことおかめの仮面をつけた妖精…いや妖怪?が出てきて私を指さし「ですが、ですが」と言葉を漏らす。

そこ、三人で話していて私は蚊帳の外だが…


『手荒なことをしてすまない。ミカゲという人とは話した。少し私の話を聞いてはくれないか。』


思わずそう言ってしまったのは、しかたがないだろう。もう私は眠いんだ。


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