01

彼女がヴァンと出会ったのは、「とある研究」のせいだったといっても過言ではなかった。
マルクトで研究をしていたサラだったがそれ事態が禁忌と言われ、どこか新しい場所を探さねばと思っていたころ。

22才頃だったと記憶していてマルクトからフォミクリーの情報をかき集め飛び出したのはまだ、記憶に鮮明に残っている。慣れない生活と、回りのあわれむようなあの目が耐えられなかったから、余計だったのだろう。

亡命に近い形で逃げ込んだのはベンケルド。
音機関に特化したその街ならば、自分の特化した能力で隠れられると思った。
その目論みは成功とも失敗とも言えるんだろう。

静かにフォミクリーを研究したかったサラのもとにレプリカを求めるヴァンが現れたのだから。
ただ研究費の足りなかった彼女にとって、彼の申し出は有りがたいものであったから、ついていった。それだけだった。

安定した研究施設。安定した費用。回りは自分のかつての異名を知っているからか食い入るようにその知識をみている。
男だから、女だからとかではなく、ただ一人の研究員として、彼女はそこにいることができ、切磋琢磨することができた。サラの名を捨てたのはこの時。








ーーただ、一人の少年と出会うまでは。


「ディアナ、今日からお前のそばにおけ。」


急につれてこられた少年は10歳の赤い髪を持つ少年だった。ND2011。ヴァンにつれられてサラが教団にきて二年。

彼女の頭のなかで逆算し、弾き出されたのは彼がND2000に生まれた子であるということ。そこから考え付くのは早かった。


『ヴァン。』
「そう怒るな。お前の研究成果がひとつ現実になった。それだけだろう?」
『勝手に使うなんて聞いていない。私は許可していない。これは、ジェイドのーーー』


低い、怒りを孕む声。
ぎしりと彼女の車椅子が軋んだのは彼女の感情故だ。けれど、その前に気がついてしまった。赤い髪のその子供が不安げにこちらを見つめていたことに…

するすると車椅子をそばに寄せて、手を伸ばす。驚いたように翡翠の瞳が見開かれるのをみて、心がいたんだ。

足に入る力は少しだけ、バランスが傾けば体が投げ出されるのは知っている。嫌というほど。
手を伸ばしたさきにいた少年がはっとしたようにサラの体を支えるように飛び込んだ。
がっしゃんっと反動で車椅子が後ろに下がるのも、膝を強打することもわかっていたけれど。


「あ、あんた、足。」
『えぇ、そうです。使えません。支えてくれてありがとうございます。そして、ごめんなさい。』


驚いたまだ声変わりもしていない少年のその声に、感謝と謝罪。きょとりとしたその顔をよくみようと足をくずせば床に座り込むような形になる。


『私は、ディアナ。今日からあなたはしばらくおうちに帰れなくなるの。その間、私のそばにいてくれる?』


ヴァンの計画に乗るつもりはなかった。予言がぶれることが心配ではなかった。
ただ、何度も狂ったレプリカを見てきたからこそ、守りたいと思ったのはある種の母性本能に近いのかもしれない。居場所を失った少年の、少しでも安らげる場所になりたかった。のだと思う。


『あなたの名前を、聞いていい?』



優しく優しく、髪を撫でながら、安心させるように、




ーー



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