03

ジェイドを諌め、着替えるためにルークの名前を叫べば待っていましたとばかりに部屋に飛び込んできた。彼に頼めばあっさりと部屋から追い出されるジェイドに笑ってしまう。
さりげなく足を隠すようにタオルケットをかけたジェイドはある意味紳士なのだろうが。


「もー、超びっくりしたー」
『ごめんなさいね。アニス。』


代わりに部屋に入ってきたアニスはやはりさすがといったところで代えの服を用意してくれたらしい。とはいっても男物なのだがとりあえず着替えられればかわかせるし問題はない。
サイズが大きめのものを用意してくれたのは体が隠せるようにと言う配慮があってだろう。受け取ってもう一度礼を言った。(先ほど言った給料は後払い交渉したが)


「噂には聞いてたけど、本当に大佐と知り合いだったんだねぇ。」
『知り合いというか共同研究者でしたからね。』
「ふぅん。」


袖を通す私の横。
足をぶらつかせながら「なんか、意外とは思わないんだけどさー」と彼女が続ける。


『そうですか?』
「なんていうの?ほら、トクナガ作ってくれたときにちょっと話してくれたじゃん。幼馴染みのこと。大佐かなーって会ったときに思ったんだよねぇ。実際そうだったわけだし。」
『まぁ、同じ師の元にいましたからね。』


ボタンをかけ、カーディガンを羽織る。
パッと見違和感はないだろう。ただ問題があるならば早々にここから立ち去りたいと言うことだけだ。バチカルにはあまり行きたくはない。
一応私からしたら敵国であるから仕方ないのかもしれないが、


『あの頃は私もジェイドも若かったんですよ。できないことはなにもないと思ってました。現実は甘くないけれど』
「まぁ、仕方ないよねー。そんなもんだもん。…でぇ、ディアナはなんにも知らないの?六神将の企みぃ、その一角でしょー?」
『私が関わっているのはシンクとアッシュだけですから。総長には研究を勝手に悪用されてそれの監視をしてるだけです。私がこの立場にいるのはただの利害の一致です。』


彼女からその言葉が出てくるのは大体予想はしていた。それぐらいはわかる。私は敵の立場だから当たり前なのだが。
こんな密室で、移動手段もない私が下手なことをできないことをアニスは一番わかっているだろう。だから私の態度になにも言わないのだ。それはそれでありがたい。


『私は私の目的で動いてる。だから、もしかしたらあなたたちの敵になるかもしれません。私には子供達がいますから』
「ふぅん…って子供!?ディアナ結婚してたの!?子供もいたの!?」
『あぁ、語弊ですね。私の教え子達がいますから。』
「そっち!もう!びっくりさせないでよね!まぁ、実際さっきも助けてくれたわけだし、」


あれは、助けたに入るのでしょうか。なんてフと考えていればノックの音。「先生入っていいか!」と扉の奥からルークの声。ちゃんとノックをすると言う行動を覚えていた彼に口許が緩む。アニスに視線だけ向ければ「私は着替え持ってきただけだしー」との返答だった。


『いいですよ。ルーク。』
「失礼しまーす、なんだアニスも居たのかよ」
「ルーク様ひどぉい!アニスちゃん、ルーク様の先生の着替えもってきたんですよぅ?」


部屋に入ってくるなり私のとなりにいるアニスを見て怪訝そうな顔をするルークはある意味素直なのかもしれないが、ただ態度としてはあんまりよろしくはない。これは後でお説教をジェイドに頼んでおくとして、ルークの後ろにいる一人を見た。


『あなたは…?所属は結構。名前を聞いても?』
「あ、はい!ティア・グランツと申します」
『…グランツ……噂に聞いていた総長の妹さんね。』
「先生知ってるのか!」
『一応上司の身内ぐらいは把握してますよ。…それでルークはどうしました?なにか用事があったのでしょう?』


彼女の名前は聞いたことがある。本名は別のもののはずだけど、たしか彼女は第七音素を使っていたはずだが、


「ティアは傷が治せるんだ。だから先生の足を治せるんじゃないかって!」


目が輝いてる。
あぁなるほどと、考えて申し訳ないことをしてしまった。そういえばルークに言ったことはたしかになかった。『ルーク』と彼をよんで手招きをすればぱっと表情が花やいでいつも私のところへ来るように目の前、手の届く位置でとまる。


『ありがとうルーク。でも、私の足は治癒術では治らないんです』
「え?」
『これは怪我ではないから治療では良くならないの。でも、ありがとう。あなたは私を思ってくれてたんですね。』


優しくその頭を撫でて笑う。これは確かに生まれつきではない。なぜ、こうなってしまったかを知っているのはマルクトのあの研究に関わっていた人間と、総長だけだ。
なぜ総長がそれを知っていたかは知らないけれど、恐らく研究を探っているうちに見つけたんだろうとは思う。


「…そっか」
『誰かを思いやることが出来るのは優しい人しかできないことです。その心は忘れてはいけません。わかりましたか?』
「…はい!」
「ティア、ルークは知らないことの方が多い子です。面倒をかけましたね。でも、付き合ってやってくれて有難うございます。どうか、間違ったことをしたときは叱ってやってください。お願いします。」
「は、はい!」


少し離れたところでアニスが「やっばぁ、母親みたいじゃん」なんて呟いていた。
こんな大きな子供を育てた覚えはないけれど、


『私の生徒は間違いなく私の子供ですよ。』


こうやって笑えるならばよしとしましょう。
私はキムラスカにつく前に逃げられるかどうかはわかりませんが


190707



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