抱き上げた彼女の体はひどく細く、日に当たらないであろうその肌は白い。
まるで人形のようだと思ってしまったのは、あの日彼の目に映った死に近い姿に、そっくりだとおもってしまったからだ。
甲板にでた瞬間に、その美しい銀色が潮風に靡き、ショーパンに不似合いなごついブーツ。まっすぐ敵に向かっていったその体は、まるであの日後ろ姿に似ていたのだ。だからこそ…
彼女が自分の名前を呼ばないそれが、酷く恐ろしい。
だから、耳元でささやいた悪魔の言葉に耳を傾けたのだ。
−−−−動けなくしてしまえと。
いっそ海に飛び込んでしまいたい。
濡れている体なのにもかかわらずさも当たり前に横抱きにされ、船内に連行された。
ちゃっかり途中で戦装束が拾われていた。
『ジェイド。おろしていただいてもいいでしょうか?』
「下したところであなた動けないでしょう?無理されなくてよろしいですよ」
『動けましたよ。さっきまでは。』
さっさとどこかの部屋に入った彼は、私をベッドにおろす。そのまま近くからタオルをとってそのまま頭にかけられて髪の水分がすわれていく。
顔は上げられない。こうして、顔を合わせるのは、何年振りなのだろうか…。ふわりと香ってくるのはホワイトフローラルの香りであり、背筋がぞわりとした。
「それ、」
『…それ?』
「足のそれは、譜業ですか。」
『あぁ、そうですね。主に移動手段です。貴方が水をかけたので一時的にショートしてしまったみたいですが、乾かせば動くんじゃないですか?』
のだが、そのままするりとロングブーツに触れられる。その指はそのまま足とブーツの隙間にさしこまれてからだが固まった。どこで外すかを確認したらしい、ぱちんっと留め金が外されて、ずるずるとブーツが脱がされる。
『っあの』
「乾かすなら脱がねばでしょう?」
片方が脱がされれば、もう片方も、そうすれば、包帯に覆われた両足が、外にさらされる。
その包帯の上からジェイドの指が下へ下へと降りていく。
「包帯も濡れてしまっていますね。外しますか。」
『結構です。』
「私がやってしまったことなのでお気になさらず」
『っそうではなく』
包帯の留め具が外された。ジェイドの肩にとっさに手を置いたサラであったが、その瞬間、彼が顔を上げた。
緋色の瞳が、互いのレンズ越しにしっかりと交わる。ひゅぅっと喉が音を立てるのだが、その瞳から目を離せなくなってしまうのは、彼のその色に自分はずっと魅せられてきたから。
「サラ」
『…っ勝手にどうぞ。』
「はい。」
包帯が解かれていく。だんだんと現れていく脚は赤黒い、自分では見慣れている「異常」けれどこれは彼の「過去の産物」である。
「…痛みますか?」
『いえ、痛みはありませんよ。』
「そうですか。」
優しく足を撫でられる。痛みもないし力もうまくはいらない。だが、感覚はある。自分では確認することはないが、他人にこうして触られるのはとんとない。
違和感だらけのその感触に無意識のうちにジェイドの肩を掴む力が強くなってしまった。
それに、再びジェイドの顔が彼女の表情をうかがうために顔を上げる。きゅっと目をつぶる様子に彼の緋色が細くなり、指先が足から頬にうつり、
『…ぇ』
合わさったのは、なんだったか。
20190609
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