*Side Luke
あぁ、声が聞こえる。俺は一体、何がどうしたのだったか。
『音素振動数まで同じ…これは…っ。』
「そんなことより、早く情報をけさないと、あいつらが戻ってくる母上。」
よく、聞き覚えのある声だ。何度も何度も俺にたくさんのことを教えてくれた人の声。
母上…?母上…とは、誰のことだ。体がひどく重い。
『…ごめんなさい、ごめんなさい。ルーク…』
謝ってる。この声を、俺はしっている。ゆっくりと目を開けば、見えたのは緑だ。
カツンっとなにかが響く音と共に、新たに加わるのは、
「せん、せい…?」
『…ルーク…。』
「っなんで、先生が…っ」
表情がかつてないほど寂し気に歪められていて、するりと頬を撫でられた。
『ルーク、みんなを信じて。独りになっちゃだめですよ。』
「どう、いう。」
『独りで抱え込まず、一人を信じず、自分の信じられる人に相談しなさい。」
「どういう、こどだよ、先生。」
「母上、早く。」
『自信を持ちなさい。貴方は私の生徒なのですから。』
そっと優しく頭を撫でられて、そのまま視界から先生の姿が消える。でも、「私の生徒」とその言葉がすごくすごくうれしかった。だって、先生は俺を認めてくれているから。
あぁ、先生、先生。
必死で手を伸ばした。必死で手を伸ばしたのに、先生は振り返ってくれなかった。
「あんたみたいのが兄貴分。ね。いやんなるよ。」
「っどういう、ことだよ…」
「さぁね。ともかくあんたはあの人のいうことちゃんと覚えておけばいいんじゃないの。」
視界に残ったままの緑色が言う。確か、シンクとかいうやつだ。セントビナーで見た。
兄貴分。とはどういうことだ、意味が分からない。こいつも先生の生徒、ということなのだろうか。
俺には、わからないことだらけだ。もっと、いろいろ知りたいのに、
*Side Sinku
心底、この横に居るヒトは先の先まで考えているんだろう。それは頭が回る…むしろ回りすぎるからか。
母上からデータを預かったのに、それを敵の一人に奪われて、しかも顔まで見られた。
それを言えば、『シンクも失敗するなんて、ふふ』と彼女は笑う。怒られると思ったから、正直驚いた。
『失敗していいんですよ。別にデータはあとから取り戻せますから。』
「取り戻す?」
『えぇ、どうせ彼らはカイツールからキムラスカに戻るでしょう。そこで私が回収します。』
「母上が?」
『あら、私も戦えないことはないんですよ?』
本当に、彼女は僕のことを子供のように扱っているんだと思う。いや、むしろ家族と思ってくれているのかもしれないけど。
僕は、何も知らないのに、この人は「僕」の感情以外のすべてを知っているようなそんな錯覚すら起こす。
『シンク。アナタは私の大切な子ですよ。血はつながっていなくても、子であり、弟子であり、何より大切な仲間です。』
「…うん」
『もちろん、アッシュも…ルークも。あなたと共に生まれた兄弟たちも…あなたと同じ宿命をもつ子たちはみんな私の子どもです。でも、貴方は特にそばにいる子ですから特別ですよ。』
「…っうん。」
あぁ、本当に、ほしい時にほしい言葉をくれる。歩いている背中にそっと手を伸ばせば、自然と振り返って微笑んでくれる。
『だから、ちゃんと私のもとへ帰ってきなさい。貴方の帰る場所は私のところです。いいですね?』
僕の居場所は、この人のところだ。
20190608
戻る 進む