04

あまりここは好きではないのだが、心配ごとがあるからこそ仕方ない。それを放置できるほど楽観的な考えは持っていないのだ。

薄暗い部屋。ぼんやりと輝くその大型の譜業に両手を握りしめてしまう。なるべく足に負担がかからないように椅子に座って息をついて、機械の調整を続けていく。
この機械を見ていると、いやでも思い出す。

遠のく意識の中で、絶望したような、彼の姿を。


『…ジェイド…あの時、失敗していなければ、私は貴方は幸せにしてあげることができたのに。』


それが、私の罪。一生消えることのない、私が背負っていかなければいけないもの。息を吐いて、椅子に背を預ける。頭が痛い。
眼鏡を無理やり外して床にたたきつければ嫌な音を立ててレンズが割れた。


「母上、」
『……シンク、』
「眼鏡ダメにしちゃったの。」


薄暗い通路からこちらにやってくるシンクに視線だけむける。少し早足でこちらにやってきた彼は床でひしゃげた眼鏡を拾い上げて、「これ、どうするの」と仮面で隠れたその表情を歪めているんだろう。


『…荒げるなんて、私らしくありませんね。ごめんなさい。お見苦しいところを。』
「母上だって人間だもの。仕方ないよ。そろそろあいつらが来る。いったん移動しよう。」
『…そうですね。』


立ち上がれば、椅子を回収してくれるシンクに笑みを返して歩き始める。
そう、もうすぐ「彼」がここに来る。



***
*Side Jede


ここに来る前から嫌な予感がずっとしていた。
ルークから聞いた話もそうだったが、なによりルークのいっている「先生」がもしや、数年前忽然と姿を消して白銀の幼馴染じゃないかと、そう思って仕方がなかった。
とはいっても、私は彼女に酷い言葉を投げかけてしまっていて、今さらあわせる顔なんてないのかもしれませんが


「なんだぁ!?なんでこんな機械がうちの別荘にあるんだ?」


コーラル城。
そう名の付いた城。ルークの別荘だというそこは、彼が幼少期誘拐されそして見つけられた場所だと聞いた。
彼の様子、そして、もう一人の「彼」の様子をみてもしやと、そう思っていたのだが


「…これは。」


ぽつりと言葉をもらしてしまった。脳裏に浮かぶのは、血まみれになりながら光に包まれ、消えかけた「彼女」の姿。
駆け寄った矢先に、彼女がこぼした言葉は「ごめんなさい」だった。
何を謝罪するものかと、そう思った。彼女の目は私ではない、本来あるべき姿へと戻っていく「彼女」に向けられ、血の涙を流した。
私はあの子を、ずっと振り回して生きていたのだ、それなのに、彼女を、私は


「大佐、何か知ってるんですか?」
「…いえ…確信が持てないと……いや、確信できたとしても…。」


随分考えに耽ってしまった。
アニスに声をかけられて視線をルークに向けたのはほぼ無意識だった。
彼女はまだ囚われているのだろうか、「死人を生き返らせる」という幻想に。


「な、なんだよ、俺に関係あるのか。」
「…まだ結論は出せません。もうすこし考えさせてください。」
「珍しいな、あんたがうろたえるなんて。俺も気になってることがあるんだ。もしあんたが気にしていることがルークの誘拐と関係あるのなら…」


とりあえず、はぐらかす。
彼女がその幻想に取りつかれているままなのであれば、この機械がここにあるのも理解ができる。
だが、それだとルークやガイのいっている「先生」の姿は一体どんな幻想なのだろうか。

そんなことを考えていたのだが、突然背後でガイが悲鳴を上げて、ほぼ反射のように飛びかかっていたアニスを突き飛ばした




20190607



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