多くの資料の中から使うであろう物だけを引っ張り出して息をつく。おそらくしばらく戻ってこないであろうこの部屋を誰かに見られるのは正直なところいやなのだ。
だからこそ、必要なものだけを手にとって息をついた。
そのまま、部屋の外に出て、くるりと身を翻す。静かにしまった隠し扉にそっと触れれば譜術で作られた鍵が現れて、そこにそっと言葉を吹き込んだ。
「準備できたの?」
『えぇ、お待たせしました。』
ND2018
それはあの男が遺した予言の期日だった。
とたんにせわしなくヴァンが動き始め、しまいには導師イオン・・・7番目のレプリカイオンすらダアトから行方不明になるのだから間違いなく、始まるのだろう。
『いきましょう、シンク。長い仕事になりそうです。』
サラは笑う。自分が朽ちる場所は知っているのだ。
あの意地悪な導師が最期の最期に遺したのは、そういうものだったから。だからこそ、サラはもう立ち止まることもない。
「そうだね。なんなら「母上」の生まれ故郷ってやつにも、連れてってよ」
先を行くサラの後ろからシンクがそう告げる。
それににこりとサラは返して「時間があれば、ですね」とわずかに言葉を濁した。
もう、とまることはない。
すでに終端への道は決まっている。
故郷と言う言葉を聞いて、あの赤い瞳の人と過ごした雪景色だけが鮮明に思い出された。
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